僕らの背骨
「…真理のお母さんはその手紙の事知ってんの?」
美紀は聞いた。
「…多分、知らないと思う…。」
真理はその事実の重要性に気付いた。
秋子が手紙の存在を知らなかったとして、夫である田中幸雄がまだ"生きている"という事実を認知しているのだろうか…。
手紙にはそれを明かす内容はなかった。
戸籍上ではもちろん田中幸雄は死んだ事になっているが、幸雄の弟である人間が身代わりになった以上、秋子にそれを知り得る事は出来ないのではないだろうか…。
しかしもし秋子がそれを知った上で幸雄が死んだ事を黙認しているとしたら…。
自分を裏切った夫を永遠に心から葬り去る為に、秋子は夫をすでに死んだ物と自身で言い聞かせているのか…。
聞くべきなのだろうか…。
母に…、その全てを…。
真理はまだその事実を母から問いただす事は出来そうになかった。
あんなにも優しく、誰よりも誠実だと思っていた母から、もし真理が想像もつかないような非道で醜い告白をされたら…。
真理は怖くて仕方がなかった。
出来る事なら全ては帳消しになり、平穏な日々がまた続いて欲しい。
母と二人で…。
しかしその母からの真実の告白が父と同じような許される事のない罪の告白だったら…。
もう一緒にはいられない…。
誰も…、もう誰も信じる事は出来ない…。
真理は孤独なる自身のそんな未来を予想した。
「…美紀、もし私が…、一人ぼっちになっちゃったら…、そばにいてくれる?」
真理は懇願するような目で美紀を見つめながら、そう呟いた。
「…当たり前じゃん!うちら親友だよ!」
美紀はそれを軽い口調で言いながらも、心からその約束を誓っていた。
「取り敢えずさ…、私今日はうちに帰りたくないから…、一緒にいて…。」
真理は早速その権利を行使して言った。
「うん!どっちにしろ明日休みだし!最初っからそのつもりだよ!!(笑)てか私今日彼氏にフラれたんだからね!なんか真理それ忘れてない!?(笑)」
美紀は美紀なりの慰め方で真理の笑顔を誘った。
「(笑)完全に忘れてた!ごめん!じゃあ今日は朝まで歌いまくろう!?」
真理は美紀のそんな気持ちを察しながら急に心のスイッチを入れた。