僕らの背骨
二人は受付で会計を済ませると早々に店を出て行った。
「…ごめんね。」
金銭的な事情で真理に会計を任せた美紀は一言そう言った。
「別に良いってば!」
真理は笑顔でそう言いながら財布をしまった。
時刻はすでに終電の時間が過ぎていて、美紀は新たに真理への謝罪を余儀なくされた。
「どうする…?もう終電ないけど…。」
美紀はもう一つの選択肢に気付いてはいたが、それを自分から提案する程図々しくはなれなかった。
「タクシーしかないでしょ?もう!いちいち気にしなくて良いってば!(笑)私が払うよ!」
真理は美紀の自尊心を傷付けない為に、極力明るく振る舞ってその行為を自然な物にしようとした。
「…うん、ごめん。」
美紀はやはりどんなに気を遣われてもその施しが自然だとは思えず、謝罪という形でまた真理に気を遣わせてしまった。
「また謝る…、ていうかこれは私の問題だからさ、美紀は協力してくれてる立場でしょ?だから私がタクシー代払うのは当たり前だよ。」
真理は通りの前で手を挙げながらそれを正当化しようと言った。
「うん…、ていうか今思ったんだけど、ホテルであの娘出てくるかな?」
美紀は聞いた。
「多分、…出てくると思う。」
真理には何故かその自信があった。
あの時の莉奈を回想すると、真理の目には莉奈は何か得体の知れない自信を身に纏っていて、自信という言葉以上の揺るぎない一つの"認知"が感じられた。
真理の知り得ないその事実を知る事で、莉奈は自分に確たる自信を植え付けていて、そのある種の"保険"が真理との面会を拒絶しないようにも予想させた。
これは飽くまで真理が莉奈を深く知らないからこそ生まれる漠然とした予想であり、他人から見ればこれはただの主観的な推測である。
あの時の莉奈が真理目線では自信に満ち溢れていたとしても、実際は莉奈が緊張で身を震わせていたかもしれない。
その相違は見た目の判断でも左右していた。
真理はその見た目から莉奈を年上だとは思えず、恐らく自分よりは年下だという先入観が生まれていた。
そして年下だと予想した莉奈が迷わずタメ口を使い、それがその"自信"からくる物なのだと真理は誤認してしまったのだ。