僕らの背骨
年上だと知った今でも個々の問題の大きさからその事実を極端に小さくしてしまっていて、すでに抱いてしまった先入観を払拭するには至らない。
つまり、真理は今だに莉奈のその自信を確たる存在だと認知してしまっていた。
「…なんでそう思うの?」
美紀は言った。
「…何となく分かる。」
真理はそれを感覚で捉え、そんな曖昧な説明で美紀を納得させた。
しばらくして一台のタクシーが目の前に留まると、二人はそのタクシーに乗り込んだ。
美紀が運転手にホテルの名前を告げると、真理は意外そうな顔でそれに食いついた。
「プリンスタワーホテル?それって結構高いホテルじゃない?あの娘一人で泊まってんの?」
真理は莉奈が高級ホテルに一人で滞在しているとルックスからはイメージする事が出来なかった。
決して莉奈が貧しい家庭で育ったと装いからは推測出来なかったが、やはり莉奈はまだあどけない少女だという真理の概念が、その行動力と財力を疑ってしまっていた。
「あっ、でも部屋は普通だったよ。シングルベッドで、バスルームもユニットバスだった…。」
美紀は滅多にない環境での出来事だった事から、部屋の内装をはっきりと覚えていた。
「ふ〜ん…、ていうかどこから来たって言ってたっけ?山口県?」
真理は誠二や父との繋がりの糸口がないかと思い、それを聞いた。
「そうそう山口、すごい田舎だって言ってた。ていうか…、超良い娘だと思ったんだけどな…。方言可愛いかったし…、本当に優しくて良い娘なんだよ…。」
美紀にはどうしても莉奈が悪人とは思えず、そう言って莉奈を擁護した。
「だってそれは私に引き合わせる為に取り入ってたんでしょ?」
真理は冷酷にもその事実を口にした。
「そうかも知れないけどさ…、何か"事情"があったんじゃないかな…。」
美紀は言った。
「そりゃ"事情"はあるでしょ!?何の意味もなく人を尾け回したり話し掛けてきたりしたら頭おかしいじゃん!?」
真理には莉奈のあの自信が人を嘲笑っているような表情に感じさせていて、どうやっても美紀の言う優しい莉奈とは同一の対象に考えられずにいた。
美紀の言う"事情"がまさに擁護に値する物であったにしろ、今の真理にはそれを想像する事は出来なかった。