僕らの背骨

真理は何気なくタクシーの窓から外を見ると、また流れる景色を眺めた。

数時間前に電車から見た夕焼けは、今では深夜の色めく光に変わり、何度でもその光景を真理の瞳に写していた。

真理はこの半日を自身で異様な存在だと認識していた。

しかし、認識の先にあるはずの安堵がまだ真理に訪れないのは、この半日の全体像が今だにその影しか見せなかったからに外ならない。

一つ一つのピースが時間の経過毎に存在を現にしていたが、真理が望む"終わり"はいつまでもその姿を示唆する事なく浮遊していた。

困惑という言葉だけでは足りない真理の心情は、今では逃避という選択肢すらを生んでいた。

もし、全てを忘れて逃げられたら…。

もし、今日が全て夢だったら…。

真理は健気にも美紀にそんな自分の弱さを見せる事なく、タクシーの中で平静を装っていた。

「真理ってあの娘とちょっと似てるかも…。」
美紀が急にそんな事を口にした。

「えっ?…何が?」
真理は言った。

「莉奈ちゃんも…、今の真理みたいにボーッとしてた。電車とかコンビニでね…。」
美紀は真理に多少なりとも莉奈に共感して欲しいと願いそんな事を言った。

「えっ?私ボーッとしてた?ていうかしてないよ…。」
真理は何故かムキになりながら言った。

「してたよ!莉奈ちゃんと一緒でそれ癖なんじゃない?」
美紀はからかうような言い方でそう言った。

「なに莉奈"ちゃん"って!?友達なの!?ちょっとは私の気持ち考えてよ…。」
真理は少しいじけた様子で言った。

「気持ちが分かってるから言うんじゃん…。真理の気持ちも、莉奈ちゃんの気持ちもね…。だってさ、今思うと…、結局莉奈ちゃんは私に何かを求めたりはしなかったよ。真理と会うのが目的ならさ、普通にちょっと話しがあるから真理の連絡先教えて、とか言うはずじゃん?多分私を利用するのに気が引けてたんじゃないかな…。もちろん結果的には私を利用したんだろうけど、それでも…、あれはただの結果でさ、莉奈ちゃんが仕向けた訳じゃないと思う。だって今日私がマサキ君にフラれなきゃ真理に会わなかった訳だし…。そんなの莉奈ちゃんがわざと出来る訳ないでしょ?」
美紀は真理からの嫉妬を覚悟の上でその理解を求めた。

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