僕らの背骨
「…どっちの味方なの?」
真理は子供っぽく拗ねた表情をしながらそう呟いた。
「真理の味方だよ!でも…、味方だからこそ、真理には間違った判断をして欲しくない…。やっぱり誰でも"先入観"ってあるじゃん?まぁ、私は真理と話した時の莉奈ちゃんがどんな感じだったかは知らないけど、少なくとも私と話してた時の莉奈ちゃんは簡単に人を傷つけたりするような娘じゃなかったよ…。」
美紀は言葉の一つ一つに感情を乗せながら言った。
「だからそれは…。」
"美紀に取り入る為"…という続きを真理は自分で飲み込んだ。
美紀は男を選び間違える事はあっても、同性の人柄を取り違える事は今まで一度もなかった。
それは真理も同様で、広く浅くという付き合い方に苦手意識を持っていたからこそ、二人は親友に成り得たのかもしれない。
ただ優しく話し掛けられたから…、ただ気を遣ってくれたから…、そんな表面だけの人柄で美紀がここまで人を褒める事など美紀の性格上考えられなかった。
先入観…、真理はもう一度あの時の莉奈の姿を思い出してみた。
莉奈は終始心ここにあらずという表情で言葉を話し、時折見せるその笑顔は少し不自然にも見えた。
あれが緊張や罪悪感による精神異常の表れだったのなら…、真理があの笑顔を"嘲笑う"という表現に取り違えたと理解出来る。
主語のないあの発言も、決して莉奈が一つのゲームのつもりで真理を困惑させていた訳ではなく、莉奈にその"迷い"があったからこそ、結果的に主語を言わなかったのだとつじつまを合わせられる。
百聞は一見に…、というそんな陳腐な諺で片付けられれば真理の困惑は存在しないが、やはり真理が今後莉奈に会う事は必然とも言えた。
このままでは何も分からない…。
莉奈の人格以上に知るべき事実がそこにはあり、真理はいずれそれを聞かなければいけない…。
逃避の先にある無知より、認知の先にある悲劇しか、もう真理には選べないのだ。
もちろん真理に好奇心がなかったと言えば嘘になる。
しかし、好奇心という危険この上ない心構えでは、それも必然的に悲劇の上乗せになる事も真理には分かっていた。
ただ、やがて知るべきその真実が仮に自身を傷付ける物だと知っていても、真理はもう逃避を望めない。