僕らの背骨

真理はタクシーの運転手から料金を言われると、まず美紀を先に降ろしてから料金を支払った。

こんなにも不安定な心情を肌身に感じている真理は、一々美紀の自尊心に気を遣っている余裕がなかった。

「…部屋番号覚えてる?」
真理はホテルの広いロビーを見渡しながら美紀に聞いた。

「ううん、番号は覚えてないけど、その階に行けばどの部屋だったか分かる。」
美紀は数時間前に彼氏から別れを宣告された場所を、忘れたくても忘れられなかった。

エレベーターと廊下の位置関係から、はっきりと美紀はその部屋を覚えていた。

「何階?」
真理は聞いた。

「18階…、だったと思う…。」
美紀はその階の数字を暗記的な記憶ではなく、脳裏に映写された断片的な記憶として思い返していた。

田辺と部屋に入る際、ドアに表示された18…の文字。

その次にあったはずの数字はおぼろげで、自信を持って言える程の記憶ではなかった。

エレベーターの前まで来ると、二人はフロントから向けられていた訝しげな視線を無視してボタンを押した。

するとエレベーターは間髪入れずに扉を開け、そんな視線から二人を逃がした。

「…ほんとに18階で間違いない?一階ズレてただけでも大問題だよ?」
真理は18階のボタンを押しながらそう念を押して聞いた。

「間違いない…。今思い出したけど、部屋出た時エレベーターの前で18って数字見たもん…。一応間違ってたらごめんね…。」
美紀は保険としてそんな曖昧な謝罪を口にした。

「知らないオジさんとかが出てきたらどうしよう…。」
真理は半分冗談でそう言った。

「援交と勘違いされるよ(笑)。私後ろで見てるから真理よろしくね。」
美紀はそんな真理の冗談を更なる冗談で突き返した。

「はぁ!?(笑)ていうか耳キーンとする…。気持ち悪っ…。」
真理は肩をすくめながらまるで関係のない主張をした。

「上向くとそれあんまなんないって知ってた?」
美紀はそんな雑学で真理の関係のない話題に乗った。

「えっ、そうなの?…全然治んないよ。」
真理は言われた通り真上を向きながらそう言った。

「違う違う、最初からやってなきゃ駄目なんだって。」
美紀は言った。

< 129 / 211 >

この作品をシェア

pagetop