僕らの背骨
忘れてはならない…。
これは一つの"告白"と考えて間違いないんだ。
事実誠二はその真実を知ってから田中真理という対象に心を囚われた。
それが恋心でなかったにしろ、誠二にとってはその瞬間から真理が唯一のベクトルとなり、孤独なる背景から自分を支えていた。
真理からの擁護を必要としていた以上、拒絶は完全なる否定であり、それが現実となれば誠二の全てが崩れ落ちてしまう。
つまりこの精神異常は当然の反応であり、それは誠二がその告白を本当に重く捉えていた事に外ならない。
これで良い…、
これが当然なんだ…。
誠二は気を落ち着けながらそう心の中で繰り返した。
拒絶を辛いと想う事こそが、自分が真理を必要としている証拠だ…。
誠二はそうして、自身の行為の正当性を疑わなかった。
そのまま誠二はベンチから腰を上げると、電車には乗らずに改札を出て行った。
先程真理は誰かと待ち合わせをしていたようだった…。
あの様子だと電車に乗ってどこかへ行ったはずだ…。
すると誠二は胸ポケットから数枚の紙切れを取り出し、何やら確認を始めた。
−調査報告書−
{被対象者}氏名 田中真理
・交遊関係1
清水美紀(クラスメイト)
東京都姫井市桂町1−32
コーポ桂1−C
庄司恵(クラスメイト)
東京都杉見区吉山3−2−6
国井美砂(地元友達)
東京都仲仕区神宮4−12−2
石川友紀(クラブ友達)
東京都渋原区谷1−33
結城紗耶(クラスメイト)
東京都神着市神着3−11−5
グランドコート20F
・補足
最上記"清水美紀"が被対象者と中学一年生からの親友。
誠二は紙切れをしまうと、すでに記憶した"清水美紀"に照準を絞り、タクシー乗り場に足を向けた。
先程会っていたのが彼女でなくても、また真理の自宅に戻れば良い…。
しかしあの二人のイメージを思い返すと、誠二はあれが清水美紀であったに違いないと核心していた。
その理由に、誠二の"無音"の世界に写る映像はごく鮮明であり、その映像で二人が気を遣う事のない会話を繰り広げているイメージが、今も色褪せる事なくその脳裏に記憶されていた。