僕らの背骨
辺りは次第に郊外の景色へと移り変わり、気付くと街灯の小さな光りや公団住宅から放つ明かりだけがその景色を照らしていた。
真理の通う中学校が都内有数の進学校という事もあり、誠二はそのイメージから真理のクラスメイトがこの周辺に住んでいるとは想像出来なかった。
土地の安さから、豪邸を建てられる立地としてこの地域を選んだのか…。
もしくは中流家庭やそれ以下の家庭に有りがちな、子供に未来を託すという傲慢な親の教育方針で娘を進学校へと進ませたのか…。
どちらにしても、真理とその親友に貧富の差は何の障害にもならない。
誠二はそう思いながらメモを取り出した。
−正確な番地まで行かなくても良いです。桂町に入ったら止めて下さい。−
そのメモを見た運転手は直ぐさま車を止め、煩わしそうに車内の照明を点けると、ゆっくり誠二の方を向いた。
「…もう姫井市桂町だよ。」
運転手は不機嫌そうに言った。
誠二はそれを聞くと財布を取り出し、表示されていた料金を支払った。
「細かいのないの?」
運転手は呆れた表情で一万円札を受け取りながらそう言った。
すると誠二はまたメモに何かを書き出し、すぐにそれを見せた。
−そちらに問題がなければお釣りは結構です。−
それを見た運転手は何て言ったら良いのかが分からず、少し困惑しながら軽く誠二に会釈をした。
誠二は開かれたドアからタクシーを降りると、自分の中にいた運転手の存在を一瞬で消し去り、もはや記憶からも排除した。
そして辺りを見回すと、静かな郊外の夜を肌身に感じさせた。
誠二に"静かな"という表現は無意味とも言えるが、誠二自身にもその光景はまさに"静か"だと認識させていた。
山口県から上京してもう数ヶ月経過していたが、誠二は久しぶりなはずのこの"郊外"の雰囲気を何故か懐かしいとは思えなかった。
もちろん山々に囲まれた山口の景観とは似ても似つかない町並みではあったが、夜になれば山口でも山々を視認する事は難しかった。
つまり郊外の夜はどの町もさほど相違はなく、皆退屈な景色なのだ。
しかし、この目に見える景色の中に誠二はとある一つの新鮮さを感じていた。