僕らの背骨
都心部での深夜の混雑はもちろん店舗の数を考えれば自然な事だが、こんな遊ぶ場所もない郊外で彼らは何を求めて徘徊しているのか…。
山口県での深夜は説明するまでもなく人は少ない。
郊外とはいえ、ここもやはり東京か…。
立地の良し悪しに関わらず東京は他県より人口密度が圧倒的に高い。
これが誠二の思う山口と東京の大きな相違であり、それを自身の中にあった多少の侮りと共に知識として踏まえ、その先へ進んだ。
寒風がふと誠二の肌を刺すと、その寒さからとある記憶を甦らせた…。
{3月22日 PM 3:59}
「誠二はまだ背が伸びそうやけん、服のプレゼントは出来んちゃ…。」
通学路を歩きながら莉奈は誠二にそう言った。
−セーターとか編む気だった?−
誠二は編み物という古典的な趣味を持っていた莉奈に釘を刺すかのようにそうメモに書いた。
「ちゃうよ!せやけん誠二はいつも意地悪…。」
莉奈はサプライズだったはずのその計画を誠二に予想され、いじけた表情で言った。
−莉奈にはいつも優しくしてるよ。…"つもり"だけど。−
誠二はメモにそう書いた。
「優しいっちゃけど、でもまだ足りん…。莉奈はもっともっと誠二に優しくされたいけん…。…ダメ?」
莉奈は懇願するような上目使いでそう言った。
数秒莉奈を見つめた後、誠二はメモにこう書いた。
−これから"ずっと一緒"にいるんだから、少しずつ優しく…、じゃ駄目?−
莉奈は何も言わず、少し照れた表情を見せながら誠二に抱きついた。
その瞬間、二人に静かな寒風が当たり、誠二はその寒さから莉奈を守るように腕をその背中に回し、少し強めに…、莉奈を抱きしめた…。
{11月1日 PM 11:58}
回想した記憶が誠二の心情に僅かな揺れを引き起こした…。
しかし、それは莉奈への未練が原因にある訳ではなく、誠二が書いたあのメモの内容に問題があった。
−これから"ずっと一緒"に…。−
莉奈への感情が紛れも無い真実として存在していたのに、その"告白"だけは誠二の冷酷なる嘘だった…。
「…り…、ぃ…な…。」
その時、誠二は舌の回らない発音で、唯一愛した女性の名を生まれて初めて言った…。