僕らの背骨
誠二は記憶した番地を頭で確認しながら清水美紀の住居を探した。
町の奥へ進む度に景色は寂れた雰囲気を増し、誠二は豪邸のイメージを排除した。
この立地に豪邸は有り得ない…。恐らく"傲慢な親"の方か…。
誠二はそんな予想を頭に過ぎらせていると、視界の中に一つのアパートを見つけた。
"コーポ桂"
誠二は一度足を止めて美紀の部屋の位置を確認すると、電気のついていない窓に注目した。
真理がいるならこんなに早く就寝するとは思えない…。
普通、年頃の中学生が親友の家に遊びに来たら大概は夜遅くまで語り明かすのが当然である。
まだ来ていないだけか…、
清水美紀に照準を絞ったのが間違いだったのか…。
どちらにしても判断をするにはまだ早過ぎる…。
誠二は近くにあった自販機で缶コーヒーを買うと、冷えた手を温めるようにそれをコートのポケットに入れた。
誠二はふとアパートに視線を戻すと、美紀の部屋の前に立っている一人の男子学生が目に入った。
見た所真理と同じくらいの年頃で、誠二が確認の為に軽い視線を向けながらアパートの前を通り過ぎると、やはりその男子学生は真理の学校の制服を着ていた。
誠二は夕方頃、学校前でその制服を着た男子生徒を何人か見た。
清水美紀の彼氏だろうか…。
もしくは美紀に心を寄せる純粋な少年なのだろうか…。
しかし時間が時間なだけに、さほど美紀と親交のない異性が訪ねて来るのは不審とも言えた。
誠二は少し距離を置いた場所からその少年を観察した。
すると少年は少し躊躇いを見せながら携帯を手にして、誰かに電話を掛けた。
しばらく少年は耳に携帯を押し付けたままだったが、やがて諦めたのか発信を切り、今度はメールを打ち始めた。
誠二は興味津々でその姿を眺め、事の終わりまで全てを静観するつもりでいた。
少年はメールを打ち終わり、誠二の目からは送信を終えたように見えた。
少年はドアから視線を外すと、ゆっくりとアパートの敷地内から出て行った。
告白とは違うようだ…。
美紀と喧嘩でもしたのか…。
その謝罪の為の行為として、わざわざ自宅まで来たという事実が欲しかったのか…。