僕らの背骨

となるとやはり清水美紀の彼氏か…。

浮気が知られて完全無視でもされているのだろうか…。

どちらにしろ美紀の彼氏だとしたら真理との交遊も可能性としてあるだろう…。

誠二はふとその少年の必要性を考えた。

"何か"に利用出来るのではないか…。

しかし少年は次第に誠二との距離を広げ、すぐに角を曲がるとその姿すら見えなくなってしまった。

突発的な出会いだけでは真理に信用性を植え付ける事由にはならないか…。

誠二は打算的な考えを止め、またアパートの窓に視線を移した。

すると少年は誠二の背後から急に姿を現した。

少年はどうやら意外にも誠二の姿に気付いていたらしく、その表情からも少し憤りを感じさせていた。

そして誠二の目の前で立ち止まると、少年は早口で何かを言った。

街灯の当たらない場所だった為、誠二はその唇の動きが読めず、先程の運転手と同じようにメモに書いて自身の障害を伝えた。

すると少年は街灯の当たる位置まで誠二を促し、ゆっくりその意志を伝えた。

「…あんた、…"誠二"だろ?」
少年は言った。

「!?」
誠二は驚愕した。

何故…。

いくら誠二が数ある可能性を考えても、その答えは見つかりそうになかった。

誠二は率直に疑問をメモに書いて伝えた。

−どうして俺を知っている?−

少年は少し口ごもりながら下を向いた。

「…俺は、美紀の彼氏で…、でも今日別れたけど…、あんたの話しはさっき聞いたんだ…。」
少年は言った。

誠二は頭が混乱した。

少年が自身の素性を知っている事自体不可思議だったが、誠二はそれ以上に誰から自分の事を聞いたのかが理解出来なかった。

カラオケ店で接触した時も、駅で拒絶された時も、誠二は真理に自身の名前は言わなかった。

にも関わらず、この見ず知らずの少年がまるで全てを見透かしているかのように今誠二の名前を言った。


莉奈か…。

やはり放っておくべきじゃなかった…。

誠二は全てに納得のいく可能性に気付き、またメモを書いた。

−確かに俺の名前は誠二だが、それ以外に何を知っている?−

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