僕らの背骨
気付くと誠二はタクシーに乗っていた。
運転手は何故か誠二にも分からない行き先に向かって車を走らせ、ただ無音の世界だけを誠二に見せていた。
誠二はまた都心の光の粒を眺めながら、自分のすべき事を何とか思い出そうとした…。
しばらくそのタクシーは都内を走り回り、やがてたどり着いたとあるホテルに停車した。
誠二は料金を支払うと迷う事なくロビーを通り過ぎ、エレベーターに乗った。
そして18Fのボタンを押すと、エレベーターのガラス窓に広がるホテルの吹き抜けを背後に背負いながら、ただ一つの事を考えていた。
これが完全なる孤独だ…。
俺は全てを拒絶し、
やがて一人になる…。
仮に自らで命を絶っても、
誰も悲しむまい…。
誠二はすでに悲観的な物の考え方しか出来ないでいた。
するとエレベーターが目的の階に止まり、誠二の向かう先を開かれたドアによって促した。
誠二はゆっくり前に進み、記憶していた部屋番号の部屋を探した。
比較的エレベーターの近くにあった部屋のドアには"1803"と書かれた番号が表示されていた。
誠二は躊躇う事なくドアをノックした。
数秒してドアの向こう側から鍵を外す音が聞こえ、中の人間がゆっくりとドアを開けた。
「…誠二。」
ドアから顔を出した莉奈は悲しげな表情をしながら言った。
誠二は莉奈の目を見ようとはせず、ただ下を向きながら何かを言いたげに黙っていた。
「………。」
すると莉奈は無言でドアを大きく開き、部屋の中へと誠二を促した。
誠二は下を向いたまま莉奈の真横を通り過ぎ、部屋に入って行った。
莉奈はドアを閉め、静かに鍵を掛けると、誠二の背中を眺めながら自分がした事による誠二への"背徳"を身に染みて感じた。
誠二は莉奈の許可を得ずにベッドに腰掛けると、両手で顔を覆った。
「…誠二?」
莉奈は聞こえるはずもないのに、悲しげな誠二の様子を見ると堪らずそう名前を呼んでしまった。
もはや何故誠二が莉奈の宿泊先を知っていたのかなど問題ではなかった。
誠二が何故ここに来たのか…。
それこそが莉奈の知るべき理由であり、誠二本人にも分からない行動であった。