僕らの背骨
莉奈はゆっくりと誠二の隣に座った。
しかしそんな悲しそうな誠二の姿を見て、莉奈は今二人が触れ合う事の不誠実さを事実として感じた。
誰よりも莉奈は誠二に触れ、抱きしめられ、この孤独を癒して欲しいと願っていた。
しかし今この瞬間、孤独なる背景に包まれているのは間違いなく誠二で、莉奈の求愛はただの自己欲でしかない。
今だに両手で顔を覆っている誠二に、莉奈は何もしてあげる事が出来なかった…。
しばらくして誠二はゆっくり手を下ろすと、顔を莉奈に向け…、そのまま莉奈の首元に顔を埋めた…。
誠二の回した腕は莉奈の背中を強く抱き寄せ、求愛ではない擁護の癒しを莉奈に感じさせた。
「それでも…、良いけん…。莉奈は誠二のそばにおるよ…。」
莉奈は呟いた。
固く目を閉じていた誠二にその莉奈の擁護の台詞は聞こえるはずもなかったが、莉奈からの優しき抱擁はそれをしっかりと誠二に伝えていた。
それから数時間…、もしくは数分か…、二人は傷ついた心をお互いに癒すように、今までの孤独を無言で表していた。
握った手はいつしか指をきつく絡ませ、二度と離れる事はない気持ちの重なりすらも、その誓いにしていた。
ゆっくりと莉奈は顔を離し、誠二に視線を合わせた。
「誠二はもう…、これ以上傷つく事ないけん…。」
莉奈は潤んだ瞳を見せながら、誠二にそう言った。
すると誠二は口を少し開き、何かを莉奈に言おうとした。
「…何?なんか言いたいん?ゆっくりでええけん…。莉奈はちゃんと聞いとるから…。」
莉奈は初めて誠二から向けられる言葉を待った。
しかし誠二はまた口を閉じ、下を向いて黙った。
「…誠二。」
それが擁護の承諾だったのか、また拒絶の提示か…。
莉奈にそれを知り得る手段はなかった。
誠二はふと立ち上がると、窓の前に立ち、広がる夜景を眺めながら莉奈に背を向けた。
莉奈はいてもたってもいられず、誠二のその背中に抱きついた。
…きっと誠二はその莉奈の腕を振り解き、また自己満足な決意の継続を言う。
莉奈はそれを確信した。
すると誠二はその強く締め付けられた莉奈の腕をゆっくり外すと、莉奈の方へ体を向き直し、また抱き寄せた…。