僕らの背骨
誠二がこの部屋に入って来た時と全く同じ光景を莉奈は再現した。
誠二はメモ帳を拾い、また何かを書き出した。
しかし莉奈はそれに気付くとすかさずメモ帳を叩き落とした。
「何も聞きたくないけん!!もう何も書かんでよ!」
莉奈は誠二に顔も向けず、早口でそう言った。
もちろん誠二にはその唇の動きが読めず、莉奈が何を言ったかは分からなかったが、その"意味"だけは理解した。
すると誠二は莉奈の隣に座り、肩を優しく抱いた。
一瞬莉奈は拒絶を見せたが、本心ではないだけにすぐ誠二に身を任せ、その抱擁を要求した。
しかし莉奈はそんな弱い自分に嫌気がさし、急に誠二の体を突き飛ばすと、シーツを羽織ったまま衣服を着始めた。
誠二は視線を莉奈から外し、その着替えが済むのを待っていた。
下着やシャツを身につけていく間、莉奈は誠二への問い掛けを考えていた。
別れは変わらない…。
もう一緒にはいられない…。
…これから自分は何をどうすれば良いの?
莉奈は考えてもその答えが見つかりそうもなかった。
着替えが済むと莉奈は立ち上がり、誠二に視線を向ける訳でもなく部屋の隅に移動した。
その行為には何の意味もなかったが、莉奈はただじっとしてはいられなかったのだ。
しばらく無言が続くと誠二はコートを手に持ち、莉奈を見据えた。
「…帰んの?」
莉奈はいじけた表情を見せながらそう言った。
すると誠二は軽く頷き、コートを羽織った。
「…なんでエッチしたん?…ただヤリたかっただけなん?」
莉奈はそうではない事を分かっていたが、そんな言い方でしか誠二を引き留められないと思い、睨み付けるような表情を誠二に向けながらそう言った。
誠二はゆっくりと莉奈に近づくと、悲しい目をしながら首を振った。
分かっている…。
そんなつもりじゃなかった事くらい…。
莉奈はそんな意思が口から出かかったが、反発するように誠二から顔を背け、またいじけた表情をして誠二を困らせた。
誠二は指先で莉奈の頬に触れると、その愛情の深さを無言で莉奈に伝えた。
莉奈は急に泣き出しそうになった。
なんで離れなきゃいけないの…。
こんなにもお互いで想っているのに…。