僕らの背骨
「…で?」
正樹はふて腐れながらも話しの続きを求めた。
「でさ、その娘もあんたと同じで好きな人がいて、その人に会う為にわざわざ…、あれっ、どこだったかな…、どっか九州とか中国地方…、まぁ良いや、とにかくそのくらい遠くからたった一人で会いに来て…、彼の為に…、なんか色々複雑な"事情"があるみたいなんだけど、それでも彼だけしか見てない…、って感じだった…。」
美伽は全くもって要点をまとめずにそんな漠然とした話しを言った。
「…ふ〜ん。」
正樹にもその話しの要点が捉えられず、ただ適当な相槌でごまかした。
「なんかよくない!?そういうの…。若い時だけだよ一人しか見えないなんて…。男も女もね!」
美伽はそんな悲しい現実を何故か弟に話した。
「…男も女も?大人になると一人だけを好きになるのが難しくなんの?」
正樹は理想主義者だと思っていた姉からのそんな意見を簡単には納得する事が出来ず、正当なる説明を求めた。
「そりゃそうだよ…。同じ体なんていつかは飽きるし、飽きられる…。結婚なんて言ったらその分お互いが望む"条件"もきつくなるし…、女はシビアだしね?」
美伽は弟に話すというより、まるで女同士の会話のように現実ばかりを話していた。
「…金?」
正樹は言った。
「まぁ、お金もそうだけど…、でも女にしたら"最低条件"だよそれは。結婚相手はお金を持ってて当たり前!プラスαで魅力とか包容力、許容範囲の大きさとかが必要になってくるの!だって誰でも結婚だけは失敗したくないしさ…、離婚する事を前提に結婚する女なんていないもん…。」
美伽は中学生の弟にしてはいけない夢のない女性心理を説明した。
「…何様だよ。」
正樹は率直な意見を言った。
「女はみんなそうだって!まだ理解出来ないのは当然だけど、結婚ってさ…、その男性に自分の全てを委ねる訳だから、理想を言いだしたらキリがないよ…。多分…、みんな不安なんだよ…。よく"女は強い"って言うでしょ?確かにそうだよ。男と比べたら何倍も強い精神を持ってると思う…。だけど、女は強い分、結婚っていうその"人任せ"の人生にどうしても不安が出来ちゃうんだよ…。」
美伽はもう弟の悩みなどそっちのけで完全に自分の話しだけに陶酔していた。