僕らの背骨
「"人任せ"か…。確かに…。もし男を選び間違えたら、女は何年も無駄にする事になる…。」
正樹は言った。
「そう!分かってんじゃん!しかも子供なんて出来たら尚更不安は募るし…。この人で本当に大丈夫かな…、とか。離婚するにしてもその時自分がいくつになってるか分かんないしさ…。ずてにもらい手がないくらい老けてたら女手一つだよ…?働けるかどうかも微妙だし…。だから女っていうのは結婚だけは絶対に失敗したくないの!理想が高くなるのは当然でしょ?」
美伽は論点を完全にすり替え、そんな女の正論を主張した。
「…う〜ん、分かる…。分かるけど…、本当に女目線だな?」
正樹は言った。
「何、反論?」
美伽は弟との意見の酌み交わしにワクワクしながら聞いた。
「女ってさ、結婚する男にはこうあって欲しい…、っていう明確な意識はあんのに、結婚してからの女はこうあるべき…、っていう意識は何にもないんだな?それって"フェア"じゃないだろ?男には完璧を求めておきながら自分は自分のままで安心したい…、って。でも男が女に完璧を求めたらそれは"傲慢"だって女は言うだろ?しかも女は結婚して旦那が完璧じゃなきゃ全部旦那のせいにして離婚するんだろ?妻が育児や家事で毎日一生懸命なのは分かるけど、旦那だって家族の為に死ぬ気で働いてるだろ…。死ぬ程疲れて帰ってきても、妻は帰りが遅いだの浮気してるだの、もっと自分にかまってだの…。支えが必要なのは女だけか?お互いを支え合いながら生きていくのが結婚じゃねぇのかよ?」
正樹は自らの結婚論を"男目線"で説明した。
「…………、やっぱ姉弟だね…。」
美伽はそんな皮肉を言って弟の正論を認めた。
「…もちろん姉ちゃんの意見も理解出来るけど、男にも男なりに支えが必要な部分があるからさ…、女にはそれを理解して欲しい…。」
正樹は付け加えて言った。
「なるほどね…、"支えが必要なのは女だけか?"っていう質問はまさに的確だね…。」
美伽は大きく頷きながら弟の意見を咀嚼した。
するとその時、店内に一人の少女が入って来た。
美伽は視線を入口に向けると、満面の笑みを見せながらその少女の方に向かって行った。
正樹は少女を視認すると、驚いた様子で立ち上がった。