僕らの背骨
取り残された二人に会話などあるはずもなく、沈黙の時間がしばらく流れた。
「…泣いてたよ、…美紀さん。」
莉奈は沈黙に耐え切れず、非道なイメージしかない田辺正樹にそんな先制攻撃をした。
「…ふ〜ん。」
正樹は莉奈と視線を合わせず、軽い相槌をしてその不必要な報告を受け流した。
「別に…、気持ちが他にいっちゃうのは仕方がない事なんだろうけど…、でも…、ちょっと可哀相かな…。」
莉奈は女として一言くらいはきつい事を言ってやりたくなり、正樹にそんな攻撃を続けた。
「あんたに関係なくない?」
正樹はもっともな意見を言った。
「まぁ、そうだけど…。」
莉奈は興味なさげにその意見を認めた。
「…ていうかさ、お前美紀の写真見て会いに来たって言ってたよな?」
正樹は仕返しとも言わんばかりに莉奈の不審な点を指摘した。
「…はぁ。」
莉奈は多少の動揺を感じたが、正樹にそれを知られた所で、すでに真理との接触を済ませた以上、特に問題があるとは思えなかった。
「嘘だろ…、あれ。昨日東京に来たばっかりなのに、あんな地元の奴しか知らねぇような美容院なんて普通行かねぇだろ?"RUIDO"なんて別に有名でもなんでもねぇし…。」
正樹は敵対を表にしながらそう言った。
「…うん、嘘だよ。」
莉奈はもう我関せずといった様子でそう答えた。
「美紀に近づいたのは何か"理由"があんだろ?」
正樹はストレートに聞いた。
「………、本当に聞きたいの?話しても良いけど…、かなり"重い"話しだから、気分が滅入るかもよ…。」
莉奈は正樹を少しからかうようなニュアンスで言った。
「…もうすでに機嫌悪いから平気だよ。」
正樹はまるでその原因が莉奈にあるような言い方をしたが、一応話しを聞きたいという意思は伝えた。
「私は美紀さんに用があった訳じゃない…。彼女の"親友"に伝えたい事があってね…。」
莉奈は言った。
「…田中か?」
正樹は戸惑いを見せながらそう言った。
「…そう、田中真理。関係してるのは母親の秋子、真理の父親の幸雄、幸雄の愛人の夏美、夏美の息子の誠二、誠二の恋人の私…。これって何角関係なんだろ?正直言ってて頭がこんがらがる…。」
莉奈はそれを冗談のように説明していた。