僕らの背骨
もちろん莉奈目線からの誠二というキャラクターは極端に美化されていて、決して悪役の設定ではなかったが、正樹にはただ腹の立つ男としてしか認知出来なかった。
正樹が顔をしかめる度に莉奈は誠二を擁護する意見でフォローをしたが、それは正樹の中で莉奈をお馬鹿な恋愛体質の小娘だと強調するだけの結果となった。
「…それで終わりか?」
莉奈がカラオケ店での真理との会話を説明し終えると、正樹は冷静な確認でやっと口を開いた。
「そうだね…、莉奈の"個人的"な部分は大分省いたけど。」
それは言うまでもなく莉奈と誠二との幸福だった時間である。
正樹は何やら考え込むと、下を向きながら、自身の内で沸々と怒りが込み上げてくるのを感じた。
誠二…。
そいつが全ての元凶だ…。
もちろん幸雄や秋子、夏美に非がない訳ではない…。
しかし、これはそもそも終わった事なんだ。
今更掘り返す事に一体何の意味がある。
全くもってただの"自己満足"だ…。
誠二さえ黙認を通せば、田中真理は平穏その物で生活を継続出来る。
莉奈は期待をしているが、真理の母親は決して言うつもりなどないだろう…。
娘を巻き込みたくないからこそ、全てを隠していたんだ。
誠二のしようとしている事はまさしく"破壊"であり、それは自らの孤独を紛らわせるだけの"傲慢"だ…。
正樹はその時、自分のすべき"役割"に気付いた。
莉奈の言う自分がすべき事…、誠二なりの正当な行動…、母親こその権利…。
それらが全て意味を持って存在しているのなら、偶然にもその真実を知った正樹にも、必然的に交差した"役割"がある。
この誠二への憤りも、その役割の示唆か…。
その時、美伽が料理を運んで来た。
「ごめんね遅くなっちゃって!ちょっとまだ店混んでるからさ、中々手が空かなくて!さぁ食べて!」
美伽はパスタを工夫して飾ったお洒落なチーズドリアを莉奈のテーブルに置きながら言った。
「おいしそ〜!ありがとうございます!!いただきます。」
莉奈は満面の笑みを見せながら、女性ならではの切り替えの早さを正樹に知らしめた。