僕らの背骨
「うん、分かった!じゃあ、こいつになんか変な事されそうになったらすぐに言いなよ。」
美伽は本気とも冗談ともとれる言い方で莉奈に気遣かった。
「しねぇよ!ていうか早く行けよ。」
正樹は顎をバーカウンターの方へ向けながら美伽に言った。
「はいはい、行きますよ。」
美伽は莉奈に軽く笑顔を見せてから店の奥へと入って行った。
「…どこにいんだよ?」
正樹は莉奈が誠二の居場所を知っていると確信を持ちながら聞いた。
「正直言うと…、今誠二がどこにいるのかは知らない。」
莉奈は悪びれもせずそう答えた。
「はぁ?嘘つけよ。…ていうかじゃあ誠二のマンションの場所教えろよ。」
正樹はまるで彼女の浮気相手を殴りに行くような感覚で莉奈に詰め寄っていた。
「(笑)…教えても良いけど、誠二は自宅にはいないと思うよ。だって…、誠二は必ず"今日"に全てを終わらせるつもりだもん…。少なくともさっきの段階ではまだ誠二は真理さんに何も伝えてない…。だから、今は真理さんの近くにいるか…、もしくは"親友"の近くとか…。人の行動は読めないし、私だって真理さんを捜すのに美紀さんを利用したしね…。もし誠二が二人の居場所を知らないなら…、どちらかの"家"で待ってるかも…。帰ってくるまで。」
莉奈は自分の予想を隠さず言った。
「じゃあ、田中んちだろ?美紀んちで待ってたって田中が来る可能性は少ねぇし…。」
正樹は言った。
「う〜ん、確かにそうだけど…、真理さん今日は"困惑"してるからね…。自宅には帰りたがらないかも…。」
莉奈は言い方に含みを見せながらそう言った。
「困惑?まだ誠二は田中に会ってないんだろ?」
正樹は言った。
「ほらっ、私が会ったからさ…。」
莉奈は皆まで言わなかった。
「…なるほどな、確かに気持ちが不安定なら一人でいたいと思うか…、もしくは親友といたいと思うかもしれない…。そうだな…、俺はずっと美紀を束縛してたし…、田中と美紀は今頃会ってるかも知れない…。」
正樹は束縛自体には特に意味を持たさずにそう予想して言った。
「そういえば束縛してたくせに結局美紀さんの事フッたんだよね…、超最低だね…。」
莉奈は美紀から悩み相談を受けただけに、そんな正樹の器の小ささを蔑んでいた。