僕らの背骨
「…うるせぇよ。今それ関係ねぇだろ?」
正樹は多少の罪悪感を感じながらも、論点のズレを指摘した。
「関係あるよ。あんたが美紀さんをフッた"おかげ"で真理さんの行動が予想出来たんだから。役に立ったね?…最低男。」
莉奈はついに完全なる敵対をそんな言い方で表現した。
「………。」
正樹は返す言葉もなく、しかめっつらをしながら携帯を手にして美紀への連絡を視野に入れた。
「…もしかして美紀さんにメールする気?フッたばっかりなのに白々しくもメール?冗談でしょ?もうちょっと空気読んでよ。ていうかなんて言うの?"田中の居場所教えて"って?フラれた直後にその相手から"あなたの親友に興味があります"なんてメールが送られてきたら女の子がどんだけ傷つくと思ってんの?あなたの勝手な行動でこれ以上美紀さんを傷つけないでよ…。」
莉奈はもう全く正樹に気を遣う様子もなく、ただ自分の考えを主張した。
「じゃあどうすれば良いんだよ!?」
正樹は莉奈の主張に否定はせず、美紀を傷付けない範囲での自らの行動がいかなる物かを聞いた。
「…待つしかないんじゃない?どちらかの家で、どちらかが帰ってくるのを…。真理さんが来る所に、きっと誠二はいるよ…。まぁ、他に心辺りがあるなら別だけど…。」
莉奈は素っ気なく言った。
「………。」
"心辺り"…。正樹にはそれがなかった。
真理とは親交がない分共通の場所などあるはずもないが、彼女であった美紀とも、会うのはいつもどちらかの家で、正樹目線での億劫だったデートは言うまでもなく少なかった。
それが影響して正樹にはこれといった特定の場所が思い浮かばなかったのだ。
過去に親友である真理の話しを美紀が嬉しそうにしていた時、少しでも耳を傾けていれば…、と正樹は後悔した。
「ないでしょ、どうせ?」
莉奈はそんな正樹の薄っぺらな部分を読み取り、冷たくそう言った。
「ていうか誠二は美紀の家を知ってんのかよ?田中んちもだけど…。」
正樹はそんな疑問を口にした。
「誠二は探偵を雇って真理さんを調べさせてたってさっき言ったでしょ…。あなた全然人の話し聞かないね?真理さんの本当に親しい友人なら、ある程度の情報は調べたと思う。もちろん住所もね…。」
莉奈は正樹への攻撃を怠る事なく説明した。