僕らの背骨
正樹は駅に向かう途中、携帯を見て美紀からの着信を期待した。
美紀からメールも履歴もなくて当然だが、美紀が自分に好意を抱いていた以上、多少の修復の示唆を期待してしまうのは悲しい男の性である。
美紀から連絡が来ればまだ説明次第で居場所を聞けたが、やはり莉奈が言うように自分からの連絡はあまりに気遣いがなさ過ぎると判断して、正樹は携帯をしまった。
するとその時、背後から駆け足をする音が聞こえた。
正樹が振り返ると、そこには携帯を手にしながらこちらに走って来る莉奈の姿があった。
「…何?」
正樹は目の前で立ち止まった莉奈に冷たく言った。
「あのさ、メアド交換しとこっか?」
莉奈はあっけらかんとした表情で突如そんな提案をした。
「はぁ?なんでだよ?」
正樹はもっともな意見としてそう言った。
「うちらのどっちかが誠二の居場所が分かれば教えられるじゃん。」
莉奈は素直に本音を言った。
「…お、おぅ。ていうかお前も捜してんの?」
正樹は言った。
「捜してるよ!一応まだ彼氏だもん…。今どこで何してんのか心配するのは当たり前でしょ?ほらっ!」
莉奈はそう言いながら携帯の赤外線センサーを正樹に向けた。
「…お前はこれからどこ捜すんだよ?」
正樹は携帯を取り出しながら言った。
「う〜ん…、取り敢えずお店戻って美伽さんと楽しくお喋りして…、それから考える!」
莉奈は意地の悪い笑顔を見せながら赤外線を送信した。
「…ていうか姉ちゃんに俺の事あんま聞くなよ。馬鹿だからベラベラ喋んだよあいつ…。」
正樹はそう言いつつ自分からも赤外線で送信した。
「別に聞かないよ…。ていうか莉奈あんたに興味ないし。」
莉奈ははっきりそう言い放つと、特に別れの挨拶などもせず、正樹に背を向けて店に戻って行った。
「………。」
正樹は何故か莉奈には強く言えないらしく、結局言われっぱなしで自分のアドレスを盗まれただけとなった。
莉奈に調子を狂わされながらも、正樹はまだ誠二への"感情"を持続させていた。
駅に入り、電車に乗ってからも、正樹の頭の中で誠二の姿が想像として膨れ上がり、劣悪なその対象はただ蔑む存在として確定していた。