僕らの背骨

この救いが誠二の今後の生命には繋がらずに、ほんの少しの時間誠二に痛みを与えるだけの存在になってしまったら…。

真理はそんな悲痛な未来を予想して、胸が締め付けられるのを感じた。

「…誠二、…死なないで。」
真理は思わずそう呟いた。

零れ落ちる涙が誠二の掌に伝うと誠二は握られた手にほんの微かな力を入れ、生きる事への"意志"を真理に伝えた。

全身に充満する激痛が誠二の意識を次第に奪っていったが、真理にはその痛みの示唆が何より安心だった。

もしこの場で誠二が微動だにせず、そのまま瞼を閉じてしまったら…。

真理にはそれが一番の恐怖だった。

すると誠二は真理を見つめたまま、ふと涙を流した…。

それは痛みによる身体的な反応なのか、もしくは誠二なりに感極まる終結をその涙によって提示していたのか…。

ただ、この握った手がどうかこのまま力を失わないで欲しい…。

真理の願いはそれだけだった。

「…あなたは、…何も悪くない。…悪くないんだよ…。…だから…。」
真理は上手くそれを伝える事が出来なかった。

誠二の認識が不安だった訳ではなく、真理には真理なりの思い込みがあった。

ここで全てを伝えてしまったら、本当に"最後"になってしまうかもしれない…。

きっと助かる…、
その時で良い…。

元気になったら、二人で思う存分"親"の悪口を言うんだ…。

真理はそう心に誓った。

「…ん、…あ、…。」
誠二は腰に走った激痛にうめき声を上げた。

それを聞いても真理にはどうする事も出来ず、ただ誠二の手を強く握って、救急車が来るのを待つしかなかった。

振り返るといつの間にかカラオケ店の店員が真理の背後に立っていて、誠二の姿を哀れみながらその視線を向けていた。

「…救急車は呼んだんですか?」
真理は聞いた。

「…あっ、はい。もうすぐ来ると思います。」
店員はそう言うと、自分の存在がこの場に不必要だと感じたのか、通りに出て救急車を待った。

また二人きりになると、真理は誠二に優しい眼差しを向けた。

「…何も言わないでね。お願いだから、何も言わないで…。…言ったら最後になっちゃいそうだから…。」
真理はそんな本音を漏らした。

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