僕らの背骨
救急隊員の一人は病院との連絡、もう一人は誠二の処置と本人への症状の確認。
真理が誠二の手を握るなど、その雰囲気的に出来そうにもなかった。
しかし救急隊員の様子や確認のニュアンスからして命に別状はなさそうだった。
だからこそ、真理は安心してそんな不謹慎な考えばかりを膨らませていたのだった。
数分すると救急車は一つの救急病院で車を止めると、誠二をストレッチャーごと下ろし、病院内に運び入れた。
真理は傍目でその光景を見守りながら後をついて行った。
その後真理は看護師から家族への連絡を義務付けられ、今は取り敢えず気を落ち着けるよう励まされた。
真理は目に入ったベンチに腰掛けると、新たな問題に頭を悩ませた。
誠二には山口県にいる叔父しか家族がいない…。
もちろんそれは誠二に"叔父"という認識しかないだけで、実際にはその叔父である田中幸雄が誠二の実の父親である…。
真実を告げるには良い機会なのでは…、と真理は考えたが、しかしそれを真理の独断で決めろというのは酷な話しだった。
今だに困惑の収まらない自分や誠二が背負った"背骨"を、たった一人でお互いを納得させる事など、今はまだ…、真理には出来そうにもなかった。
途端に孤独を感じた真理は、携帯を手にして美紀にメールを打ち始めた。
−誠二が4daxの屋上から飛び降りた…。命に別状はないみたいなんだけど、今"渋河中央病院"にいるから、美紀にも来て欲しい…。一人だと不安で…。−
真理は携帯を閉じると、ふとため息をつき、親友の擁護を待った…。
病院内は次第に混雑を見せていて、どうやら誠二以外にも救急患者が運ばれて来たらしく、早朝にも関わらず病院内は騒然としていた。
ただ想う誠二の安否は次第に安静を見せ、今は自分と誠二の関係性にどう線引きをするか…、真理はそんな現実を考えていた。
一度は恋心すら芽生えた相手である…。
簡単には兄と妹という概念を当て嵌める事は出来ない…。
先程まではあんなにも別れを拒絶していたのにも関わらず、真理はすでにあの拒絶の理由すら探し始めていた。
だからこそ、今真理の目の前を通り過ぎたストレッチャーに顔面蒼白の"莉奈"が乗っていたとしても、真理に気付く事は出来なかった…。