僕らの背骨

真理は眠気眼で辺りをボンヤリ眺めていると、ふいに感じた自らの責任に気付いた。

許されざる父親の罪は今もこうして揺るぎなく存在している…。

だからこそ、その真実は傷付いた自分達の必然的な交差の結束になる。

誠二を救うなら、まさにその"告白"が唯一の手段なのかもしれない…。

そんな擁護の方法を頭に巡らせながら、真理は次第に遠退く意識の揺れを心地良く感じた。

瞼が重く垂れ下がり、体はゆっくりとベンチに深くもたれていった…。

漠然としたその意識の中で、真理は一つの幻影を見た…。


まだ見ぬ実の父親が目の前に立ち、真理に背を向けたまま何かを話している…。

真理に話し掛けているのか…、それともただ…、自分の罪を一人で懺悔しているのか…。

真理はその父の背中を呆然と眺めながら、自身の内から込み上げる怒りを感じた…。

全部あなたのせい…。
私は何も悪くない…。

何度心で繰り返しても、真理はそれを口に出す事は出来なかった…。

父を理解しての優しさか…、ただ嫌悪する対象への放置か…。

振り返らないで…。
真理は急に不安になった。

見たくない…。
怖くて仕方がない…。

お願い…。
私はもう何も考えたくない…。

真理は堪らず両手で顔を覆った。

吐く息は冷たく、こもる吐息すら温度を上げずに、そのまま浮遊する孤独なる空間を濁した…。

違う…、違う…。
ただ、聞いて欲しかった…。

退屈な日々が過ぎる度に、自分の寂しさは募って…、一人では支えられないくらいに体が震えた…。

だから…、
誰でも良い…、聞いて欲しかった…。

私はいつも一人ぼっちだって…。

ゆっくり両手を顔から離すと、真理は目を開けた。

先程より吐息は白くなり、辺りの光景は消えた父の空間に僅かな光りの跡を残していた…。


すると、意識の遥か遠くから微かに騒音が聞こえた。

次第にその音は大きくなり、ふと目を開けた光景には、病院の廊下に行き交う雑踏が、真理の視界を90度曲げたまま現れた…。


{11月2日 AM 10:14}

真理は三人掛けのスペースをすっかり占領していて、何気なく自身の頬に伝っていたヨダレ拭くと、ゆっくりと姿勢を直した。

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