僕らの背骨
「…分かりました。ていうかあの…、彼は、…大丈夫ですか?」
真理は恐れながらもそれを聞いた。
「えぇ、今回は本当に"運"が良かったです。頭部に損傷もなく、肋骨と左腕は折れていますが、内臓は辛うじて無傷でした…。なので…、くれぐれも今後は、彼の精神面でのケアをご家族で話し合って下さい。当病院にも"そういった"患者をケアする施設がありますので、いつでも相談してみて下さい。」
医師は皆まで言わず、深入りしない程度に真理にアドバイスをした。
「…はい、ありがとうございます。…あの、会えますか?」
真理は誠二への"告白"の為、自らがすべきその行動をすでに心に決めていた。
「本来なら休ませるべきなのですが、本人があなたとの面会を希望しています…。ただ、今は快復させる事が最優先なので、話しは短めにお願いします。」
医師は言った。
「…分かりました。」
真理はそう言うと、美紀にアイコンタクトでここに待機していて欲しいという意思を伝え、そのまま医師について行った。
病院の廊下を一歩進む毎に真理の不安は強まり、徐々に近付く誠二の存在が、まるで出会った時と同じような異質にも感じる対象となっていた。
誠二とどう接したら良いのだろうか…。
『助かって良かったね!』と笑顔で言うのか…、もしくはこの不安をそのままに、困惑した表情で父親の存在を伝えるのか…。
あまりに酷ではないだろうか…。
誠二は今でも紛れも無い被害者で、その"背骨"によって心が折れてしまっただけの、か弱い少年なのだ…。
「どうぞ。」
医師は開け放たれた病室のドアの向こう側に真理を促すと、そのまま廊下の奥に去ってしまった。
二人っきりか…。
でも、その方が良いかな…。
すごく"個人的"な話しだし…。
真理はなるべく物事を良い方向に捉え、ゆっくりと病室の中に入った。
不安そうな表情をしながら視線をベッドに向けると、真理は自分では無意識に…、誠二に笑みを見せた…。
「………。」
しかし、掛ける言葉が見当たらなかった真理はベッドの横にあった椅子に座り、そのまま誠二に優しい微笑みを見せた。
今は…、休ませてあげたい…。
真理は本心でそう思った。