僕らの背骨
すると誠二は傷だらけの顔を僅かに微笑ませると、無言で真理を安心させた。
そして折れた左腕を少し外側にずらすと、指を少し動かし、真理の擁護を求めた。
「…あっ、…でも折れてるんでしょ?」
真理はギブスで固められた左腕に触れる事を躊躇った。
すると誠二は優しい眼差しを真理に向け、無言の懇願をした。
「………。」
真理は困惑しながらも、誠二に痛みが走らないよう極力優しく指先に触れ、その懇願を受け入れた。
誠二はそのまま安心したように瞳を閉じると、たった一人の大切な"妹"からの擁護を、その体温から感じた。
誠二にはそれが初めての安らかなる幸福であり、今後忘れる事のない…、唯一の"家族"の記憶となった。
傷付き、孤独になり、一人で全てを背負っていた誠二は、今こうして真理の擁護に救われ、新たな人生を得た…。
胸の内で必死に抑えていた莉奈への求愛も次第にその解放を見せ、今意識に写る柔らかな体温も、いずれ現実に触れる事と信じ、誠二は莉奈の姿を想い描いていた。
「…ん、…あ。」
誠二は微かな寝言を言った。
「……喋った。…そっか、耳が聞こえなくても、一応声は出せるんだ…。」
真理はそんな事を呟きながら、今はこんなにもひ弱な兄に、優しく微笑みを浮かべていた。
「…真理?」
病室の入口から美紀が顔だけ出しながら言った。
「大丈夫だよ。…今寝てるから。」
真理はそう言うと、手招きをして美紀を室内に入るよう促した。
「…良いの?…お邪魔します。」
美紀はなるべく音を立てないように忍び足で室内に入った。
「(笑)ていうか聞こえないから大丈夫だよ。」
真理は改めて誠二の障害を笑いながら美紀に教えた。
「…あっ、そっか。…耳聞こえないんだっけ?なんだ!…ていうかじゃあ真理どうやって会話してたの?」
美紀は当然の疑問を言った。
「…もう会話なんていらないよ。お互いに全部"理解"してるから…。もう、一人ぼっちじゃないって…。」
真理は誠二を見つめながらそう言った。
「…ふ〜ん。じゃあ…、一応仲直りしたんだ?」
美紀は聞いた。