僕らの背骨

「ていうかママにメールしとかないと…。説明無しで出て来ちゃったから…。」
美紀はそう言いながら携帯を手にメールを打ち始めた。

「…病院って携帯ダメなんじゃなかったっけ?」
真理は確信を持てない疑問を美紀に投げ掛けた。

「…そっか。えっ、メールも?」
美紀は特に理由もなくそんな質問をした。

「ダメ…、じゃない?送信する時の電波とか…。多分あれじゃない、機械とかに影響するからでしょ?」
真理はやっと確信の持てる理由に気付き、自慢げにそう言った。

「あっ、そういう事か…。話し声が迷惑とかじゃなくて電波か…。じゃあちょっと表でメール送ってくる。」
美紀はそう言うと、真理の肩を軽く触れてから病室を出て行った。


「………。」
また誠二との二人きりの時間が流れると、真理はゆっくり手を延ばし、先程と同じように誠二の指先に優しく触れた…。

誠二のその冷たい指先が真理の体温と溶け合うと、次第にそれは共有する肌の触れ合いを微かに感じさせ、真理に特異な感覚を芽生えさせた。

お兄ちゃん…、じゃなかったら良かったのに…。

真理は聞こえないとは言え、誠二の目の前でその心情を口にする事は出来なかった。

しかしそれは恥ずかしいという感情故の抑制ではなかった…。

真理自身の胸の内にある求愛の感情が、それを口にする事で…、今にも溢れ出てしまいそうだったのだ。

こうした指先の触れ合いは二人の微妙な均衡を保っていて、これはある意味で、妹からの擁護なのだと真理は自分自身に言い聞かせる事が出来る。

そして真理の求愛もまた…、誠二と触れ合う事によって僅かな欲処理にも役立っていた。

時間を掛けて接近した関係なら、こうも真理が困惑する事はなかっただろう。

しかし真理にそんな選択肢があったにしろ、また同じように誠二に惹かれてしまうのは必然だった…。

美しく、どこか影があって、不器用な純粋性で自己を主張する…。

言葉を話せないその障害すら一つの特徴であり、または個性にも見せる…。そしてそれが誠二の揺るぎない魅力となっていた。

どんな出会い方であれ、誠二には惹かれていた…。

真理は胸の内でそう呟いた。

するとその時、真理の背後からドアをノックする音が聞こえた。

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