僕らの背骨
「………。」
幸雄は込み上げる感情を必死に抑えた。
「だから…、あなたもう…、何も言う必要はないんです。」
真理は毅然とした表情でそう父に言った。
幸雄は自身の娘である真理の誠実さに、瞳を潤わせた…。
真理は幸雄が思い描いていた純粋なる娘の想像図よりも遥かに強く、そして優しく、その誇れる人柄を言葉と表情によって表していた。
そんな愛する娘の成長を見て、幸雄の胸の内は喜び以上の感情が広がっていた。
するとその時、美紀が駆け足で病室に入って来た。
「真理!…あっ。」
美紀は幸雄の姿に気付くと気まずそうに軽く会釈した。
「あっ、この人…、誠二のお父さん…。」
真理は"深くは聞くな"というニュアンスを顔で表現しながら美紀に言った。
「あぁ…、なるほど…。あっ、ていうか!"莉奈ちゃん"がここに入院してんの知ってた!?私今間違えて下の階に行っちゃってさ、病室探してて名前の札見てたら"高橋莉奈"って書いてあったから、まさかと思って病室チラッと覗いたら、本当に莉奈ちゃんだった…。」
美紀は早口でその事実を伝えた。
「…すぐ戻る。」
幸雄は真理にそう言うと、慌てた様子で病室を出て行った。
「えっ?」
真理は混乱しながらも頭で状況を整理しようとした。
「…あの人、莉奈ちゃんとも知り合いなの?」
美紀はそんな疑問を真理に言った。
「多分…。ていうか莉奈ちゃんと誠二は恋人同士だし…。"だった"…、なのかな…?」
真理は首を傾げながら言った。
「あっ、そっか…、山口で普通に面識あんのか…。なんかややこしい!ていうかめんどくさいあんたの家族!」
美紀は冗談混じりでそんな事を言った。
「莉奈ちゃんはまた別でしょ!(笑)ていうか笑ってる場合じゃないよ…。莉奈ちゃん大丈夫なの?」
真理はふと真顔になってそう聞いた。
「…分かんない。チラッと見ただけだもん…。」
美紀は困惑した表情で言った。
「ちょっとうちらも行ってみようよ?」
真理はそう提案した。
「…えっ、放って置いて良いの?」
美紀は誠二を指さしながら言った。
「大丈夫だよ別に命には別状ないんだから。…それにどうせ寝てるし。」
真理は冷たくそう言い放った。