僕らの背骨
二人は揃って病室を出ると、廊下の先にある階段で下に降りて行った。
「莉奈ちゃん今までどこにいたんだろう…。」
美紀は最後に見てから病院に運ばれるまでの莉奈の行動を疑問視して言った。
「…怪我とかしてるっぽかった?」
階段を降りながら真理は聞いた。
「本当にチラッと見ただけなんだって!」
美紀は真理の重複している質問をそう言って遮断した。
三階から二階に降りると、真理は美紀を前に歩かせ、莉奈のいる病室までの道案内をさせた。
美紀は階段から程近い病室の前で立ち止まると、入口に貼ってあった名前の札を指さした。
「…本当だ。」
真理は札を見つめながらそう言うと、締め切られたドアに視線を移し、意を決した表情でドアノブに手を掛けた。
すると同時に反対側からドアが開かれ、中から幸雄が神妙な顔付きで出て来た。
「大丈夫…、看護師が言うにはただの"過労"だって…。」
幸雄は二人を安心させる為、なるべく事を重大には捉えないよう、"ただの"と付け加えて言った。
「過労…。」
真理は莉奈がそこまで体調を病んでいたとは察知出来ず、今までの会話の中にあった莉奈への対応を恥じた。
「…じゃあ、今は寝てるんですか?」
美紀はドアと幸雄の隙間から莉奈の姿を覗き込みながら言った。
「あぁ、私はちょっと先生に詳しい話しを聞きに行ってくるから、君達は誠二の病室に戻っていなさい。…今は彼女をゆっくり休ませてあげよう。」
幸雄はそう言ってドアを閉めると、真理の横を摺り抜け、ナースステーションの方へ歩いて行った。
「過労って…、若い娘でもあるんだ…。」
美紀はそんな主観的な意見を言った。
「そういえば莉奈ちゃん…、たった一人で山口から東京に来て、でも誠二から拒絶されて…、ずっと一人ぼっちで…、頑張ってたんだよね…。」
真理は締め切られたドアを情のこもった瞳で見つめ、莉奈の背負ったその孤独に初めて気付いた。
「すごい良い娘だよね…。」
美紀はそう言いながら真理と同じような視線をドアに向けていた。
「せめて誠二が元気になってくれれば、莉奈ちゃんも安心出来るんだろうけど…、あの怪我じゃ当分は動けないだろうね…。」
真理はゆっくり階段の方へ足を進めながら言った。