僕らの背骨
すると莉奈はもう一度誠二の胸を思いっきり殴り、自分の部屋のドアノブを乱暴に引いた。
しかし、オートロックのホテルのドアはしっかりと鍵が閉められていて、莉奈は室内に忘れた鍵の存在を思い出した。
「どいてよ!!!」
莉奈はそう言いながら誠二の体を突き飛ばすと、ホテルの従業員に鍵を開けてもらう為、フロントに向かった。
誠二は壁に叩きつけられた体をゆっくり立て直すと、莉奈の方へは視線を送らず、ただ深いため息をした。
それから数分、もしくは数秒か…、誠二は呆然と立ちすくみながら莉奈への対応に頭を悩ませた。
するとその時、誰かが誠二の肩を背後から突いた。
振り向くとそこには真理の姿があった。
「……どうも。」
真理は少し遠慮がちに会釈をしながら誠二に言った。
「…………。」
困惑した誠二はただ真理の顔を凝視していた。
「今さっき…、莉奈ちゃんとすれ違いましたけど…、でも無視されたけど…。」
真理は苦笑いをしながら言った。
誠二は必死にこの奇妙な再会を頭で整理しようとしたが、どうやっても納得のいく理解は出来そうになかった。
「…あの、莉奈ちゃんは今美紀がついててあげてるみたいだから…、大丈夫だと思います…。」
真理は何故か誠二を気遣いながらそんな報告をした。
やはり恋愛のもつれは誰にでも辛い物で、決して他人でも見過ごせない境遇なのだ。
真理はただそんな優しさを見せ、誠二への理解を最優先に考えた。
「…なんか、…ていうかメモとか書いてくれないと…、あなたの言いたい事が伝わらないから…、何かあるなら、…言って下さい。」
真理は誠二の主張を受け入れるつもりでそう言った。
"あんたの母親は人殺し…。"
その誠二の主張を聞く事で、誠二自身が納得出来るなら、真理は素直に聞いてあげようと思った。
「………。」
誠二は呆然としながらもコートの内ポケットに手を入れると、中から小さなメモ帳を取り出した。
「それそれ…、数時間前に見たばっかりだけど、なんか懐かしい…。」
真理はそんな皮肉を言いながら誠二の"告白"を待った。
誠二は真理の予想よりは早い書き方でそのメモを書き終えると、そのまま真理にメモを見せた。
−どうしてここに?−