僕らの背骨
エレベーターが一階に着くと、二人はロビーを見回し、莉奈の姿を探した。
案の定莉奈はロビーのソファに座り、美紀からの慰めに応じていた。
「じゃあ…、一応私は先に行って待ってるね。」
真理は誠二にそう言うと、足早に美紀の隣に座り、何やら小声で話すと美紀と連れ立ってホテルを出て行った。
誠二は一人取り残されたその莉奈の姿を見ると、僅かな胸の痛みを感じた。
自分が山口県を後にした時から、莉奈はずっと一人ぼっちだった…。
自分と出会った事で莉奈は何度も傷付き、孤独を知った…。
幸福だった"季節"を掛け替えのない存在として自身の胸に巡らせても、その孤独はきっと消えなかっただろう…。
その孤独と幸福の差が大きければ大きい程、莉奈の傷心は計り知れない…。
自分は莉奈に何をしてあげた…?
自分はただ、求愛と擁護を掛け違え、常に悲哀の元凶だった…。
また求愛を繰り返せば、さらなる孤独が莉奈を襲う…。
しかし姿を消せば、同じようにその傷は広がり、莉奈の今後の人生を左右する障害にも成り兼ねない…。
求愛は人を傷付け…、
半端な擁護もまた傷付ける…。
誠二は莉奈と遠い視線を合わせながら、その"選択"に困惑していた。
しばらく二人の絡み合う視線はロビーで継続され、誠二がゆっくり足を一歩前へ踏み出すまで、ただその空間に漂っていた。
莉奈の目の前まで来ると、誠二は一度視線を外して下を向いた。
数秒してまた莉奈を見つめると、誠二は指先で僅かに莉奈の頬に触れ、その感情の深さを無言で伝えた。
「触んないでよ…。」
莉奈は意固持になってそんな拒絶を見せた。
誠二はそのまま莉奈の隣に深く座ると、莉奈をそっと抱き寄せた…。
莉奈は一瞬体を揺らし拒絶したが、その力加減は本音の拒否ではない軽い物だった。
そのまま莉奈は誠二の首元にゆっくり顔を埋めると、両手を誠二の背中にまわし、体を強く抱きしめた。
許した訳ではない…、
ただ、今はこうしていたい…。
莉奈のそんな弱さを、誠二は優しく受け入れた。
二人はしばらくその抱擁を続け、やがて選択の決断が迫られるまで、ずっと離れずにいた。
莉奈の熱い吐息が誠二の首元に広がると、次第に誠二も莉奈もその高揚を感じた。