僕らの背骨
ふと莉奈は顔を上げた。
「一緒にいてくれる…?」
莉奈は紅潮した顔を見せながら言った。
しかし、誠二は首を横に振った。
そしてメモを書き出し、その意思を伝えた。
−今は行かないと…。−
「なんで…?もう莉奈に会えんでも良いの…?」
莉奈は甘えた口調で誠二にそう言った。
誠二はメモを書いた。
−必ず戻ってくる。−
「今いなくなったら莉奈はもう誠二とは会わん…。」
莉奈は口元を固く結んでいじけた様子で言った。
誠二は一瞬悲しげな表情を見せた後、今度は少し長めにメモを書いた。
−俺はやっぱり伝えるべきだと思う。これはもう自己満足なんかじゃないんだ。多分…、伝える事自体に意味があって、それをしなければ、"俺達"は前に進めない…。分かって欲しい。−
「"俺達"?…誠二と莉奈の事?…それとも真理さん?」
莉奈はまだいじけた表情を見せながらそんな質問をした。
誠二はメモを書いた。
−俺と莉奈の事だ。ただ…、これは真理の為でもある。知る事によって傷つくのは仕方がないが、それを"理解"すれば、もしかしたら俺達は父を"許せる"かもしれない。憎しみを持ったまま生きるのと、その擁護で救われるのと…、どっちが正しい選択だと思う?−
「でも…、真理さんがそれを望んでなかったら?…結局誠二の自己満足になっちゃうでしょ?」
莉奈は今まで思っていた自身の考えを誠二にぶつけた。
誠二はメモを書いた。
−さっき真理は言ってた…。あなたの言いたい事を、聞かせて欲しいって…。恐らく真理は全てを知ってる。知ってるからこそ言って欲しい…。その表情から、俺は真理の考えが分かった。真理が誰からそれを聞いたのかは知らない。そんな事はもうどうでも良いんだ…。今はただ、俺はその役目を果たすべきなんだ。俺が生まれ、死に行く事に意味があるのなら、それは今日という日に分かるはずなんだ…。
−全てが終わったら、必ずお前を迎えに来る。
約束する。−
「………。」
莉奈は読み終わった後も、ずっとそのメモを眺めていた。
莉奈は幾度誠二の為に涙を流したのだろう…。
その度に孤独に震え、誠二との出会いを悔やんだ…。
しかし、今この瞬間に流している涙が唯一…、その擁護の涙だった…。