僕らの背骨
真理も続いて階段を上り始めると、ふと誠二からの"告白"が、予想している物とは多少異なる気がした。
"母親は人殺し…。"
今初めて感じた兄妹の関係性をお互いに共有しているのなら…、そんな告白が出来る訳がない…。
もし誠二が告白その物に執着し、やはり予想通りの言葉でそれを言うのなら…、真理はもう二度と、この身勝手な男を"兄"と呼ぶ事はないだろう…。
階段を上り切ると、誠二は視界に広がる都会の夜景に魅入った。
「綺麗でしょ?ここ前まで美紀とよく来ててさ、このビル自体は7階建てだからあんまり高くないけど…、周りの大きなビルがここを光りで包んでる感じがしない?」
真理は笑顔で誠二にそう言った。
真理の言った通り、周囲に立ち並ぶ都心のビル群は無数の光りを放ち、その光りの粒が広がるように辺りを彩っていた。
薄く色付いた空とビルの境目が程よくグラデーションを描き、都会では暗い星でさえ、その装飾として輝いていた。
「一応二人きりの方が良いと思ってさ…、美紀には帰ってもらった…。だから…、話したい事があるなら、…どうぞ。」
真理は誠二の真正面に立ち、覚悟を決めた表情でそう言った。
別に傷つかない…。
受け入れる事が自分の"役目"なら、ただそれを認めるしかない…。
真理は少しその責務に悲しみを感じたが、自分の平穏が偽りの存在であったのなら、それを理解する事でまた自分を取り戻せる…。
そんな精神論を心に秘め、誠二からの告白に準備していた。
すると誠二は屋上の端に座り、メモを書き出した。
今までの短文の書き方とは違う雰囲気を見て、真理は誠二が一度に全てを書き記すつもりなのだと言う事に気付いた。
真理はふと軽いため息をつくと、誠二とは逆側の端に座り、じっと待つ事にした。
表の大通りに視線をやると、車の往来はすでに帰路ではなくなっていた。
深夜から早朝に切り替わるこの微妙な時間帯に、真理は何故か不思議な魅力を感じていた。
小学生の頃、夕日が公園を照らし、悲しげなチャイムが鳴る…。
友達と初めて深夜に遊び歩き、静かな空気がその時間を包み、ふと胸の高鳴りを感じる…。
学校の下駄箱でラブレターを渡し、相手の表情を見た途端にふと体が硬直する…。