僕らの背骨
「…別にどうでも良くない?ていうかなんでそんな事聞くの?」
紗耶は返答に困っていた真理を気遣うように、少し怒った表情を見せながら母に言った。
「ごめんね真理ちゃん?別に無理して答えなくて良いんだけど…、ほらっ、今日せっかく知り合えたでしょ?だからね…、何か真理ちゃんに困ってる事があるなら相談に乗ってあげたいし、もしかしたら私に何か出来る事があるかもしれないから…。」
紗耶の母は正直な気持ちとして真理に言った。
しかし、その気持ちが正直な分、真理の胸を締め付けた…。
「………、パパは…、いません…。」
真理は押し殺した声でそう言い、やはり今日という日が"普通"じゃない事を痛感した。
15年間ずっと存在を否定されていた父が、今日初めてその影を"手紙"という形で見せ、それによって真理が心の逃げ場を探した結果…、行き着いた先でその父の質問をされた。
真理は全てを楽観的に捉えていた自分を悔やんだ…。
最初から、そう…、最初から父がいないという事を自身でもっと重く捉えていれば、こんなにも胸が張り裂ける事はなかったのだ。
「………。」
紗耶の母は困惑し、無言で真理の環境を哀れんだ。
「…もうアタシの部屋行こっか?」
紗耶は無言の間、その場を修復する方法を何とか考え出そうと悩んだが、結局真理をこの場から逃がすという事しか考えつかず、小声でそう言った。
「…………。」
真理は下を向き、座ったままその紗耶の気遣いを無言で拒絶した。
紗耶の母が悲痛な顔で自身の質問を取り消そうと口を開きかけると、真理は瞳から大粒の涙を流した…。
真理にも予想しなかったその涙は止める事の出来ない感情の起伏で、今までの人生で流し忘れた涙が、この瞬間に溢れ出ているようでもあった。
溜まった涙はゆっくりと頬を伝い、襟元を濡らした。
「ごめ…、ごめんなさい…。…あれっ?なんか止まらない…。
ほ、ほんとにごめんなさい…。」
その緩くなった涙腺は枯れる事を知らず、真理自身それに驚き、今は何故か無理に笑顔を見せながら、その動揺を謝罪していた。
「…な、なんで?真理は何も悪くないよ…。」
紗耶は真理の肩に優しく触れながら言った。