僕らの背骨

「今はただ…、この存在を忘れて欲しい…。選ぶ事の出来ない誕生と環境が、こうしてその"選択"を教えてくれた…。暗い淵にいる感覚を間近に抱き寄せ、無音以上の恐怖が我が身を襲う…。"選択"はそれに耐えられないからじゃない…。もう意識を正常に戻す事が出来ない以上、存在が多くを傷付ける…。次第に浸蝕する罪悪の感染が君にも…、そして莉奈にも…。つまり俺は息を吐く事すら許されないんだ…。触れる度に相手を蝕み、その犠牲を押し付ける…。いくら事実を認知しても、それを理解する事は出来ない…。そう…、否定する事でしか…、自分を救えない…。理解とは…、"犠牲"だ…。他の自害を拒絶するのなら…、その理解が唯一の手段なんだ…。君は何も悪くない…。君の母親も…、死んだ父も…。全てはその理解で解決出来たんだ…。"理解"、つまりはその擁護が君を救い…、莉奈を自由にする…。

さよなら…、真理…。」

真理は最後の一文を読み終わると、困惑した表情をしながら誠二に顔を向けた。

するとその瞬間、誠二は屋上の淵に立っていて、ふと優しい笑みを見せながら、


…飛び降りた。


交差による互いの意識が微妙に螺旋を作り、こうして真理の予期せぬ出来事に繋がった。

個々の広がる行為の行方はいつでもその結末を混乱させ、誰でも必ず自らの感情を優先してしまう。

相手を擁護するという行為は、決して簡単な事ではない。

意識の中にある自我が強過ぎると、それは結局自己満足になり、何より相手を傷付ける行為になる。

誠二が選択した自害による行為も、決して擁護ではない。

自らの存在を消す事で、各々が背負った"背骨"が修正される事など有り得ないのだ。

逃避は誰にでも持ち得る精神不安の表れであり、それを実際に行動に移してしまえば、結局は逃避だけの行為に位置付けられ、誰一人として擁護する事は出来ない。

しかし、それよりも更に許されざる行為は、今まさにこの現代社会に蔓延していて、彼らはその孤独に耐え切れず、他を巻き添えにして愚鈍な感性を満足させようとする。

彼らは理想には程遠い自分を怠惰な他人のせいにして、自らを選ばれし人間だと誤認する。

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