僕らの背骨
「………。」
莉奈は正樹の言う通りそんな想像を頭に巡らせてみた。
美しく妖艶な美男美女が視線を絡ませて抱き合う…。
肌が触れ、擦れる感触が互いを惹きつけると…、そのまま唇が重なる。
その男性が誠二で、女性が見知らぬ女…。
莉奈よりスタイルが良く、大人で、頭脳明晰の才女…。
仮に女が莉奈より総合的に劣る対象でも…、莉奈は尚更その想像に心を痛めてしまう。
「…絶対嫌。」
莉奈は拳を握り締めながら呟いた。
「だろうな…。ていうか、俺が今何を言いたいのかっていうと…、誠二のしようとしている事が、今は違うんじゃないかって事なんだよ。」
正樹は言った。
「…どういう意味?」
莉奈はようやく正樹に顔を向けて聞いた。
「誠二は孤独に耐えられない…。でも、田中を傷つける事は出来ない…。きっと奴はそう考えたはずだ…。田中は誰から見ても良い娘だし、妹なら尚更傷つける事なんて出来ないはずだ。だったらどうする…?誠二は何をするつもりなんだ?逃げられない孤独から救われる為には、一体何をする?」
正樹は飽くまで主観的だが正論を言っていた。
「……分かんない。」
莉奈は正直に言った。
「何で分かんないんだよ!?"一つ"しかないだろ?一番簡単で…、一番馬鹿な行為だ…。」
正樹は最後まで言うのを躊躇った。
「………自殺…?」
莉奈は一瞬青ざめた表情をしながらそう呟いた。
「………。」
正樹は否定も肯定もせずに、ただ莉奈を見詰めてその判断を委ねた。
「…行かなきゃ。」
莉奈はそう言うとふと立ち上がった。
「行くってどこに?居場所分かんないんだろ?」
正樹もつられて立ち上がると、そんないきり立つ気持ちを抑えながらそう言った。
「ううん…、さっきロビーで真理さんと別れる時に聞いた…。あの時は行くつもりなんてなかったから返事もしなかったけど…、多分莉奈が安心出来るように、真理さん気を遣って言ってくれたんだと思う…。」
莉奈はそう説明しながらバッグや携帯を手に持ち、誠二に会いに行く決心をした。
「じゃあ俺も…。」
正樹は何故か遠慮がちに一緒に行く事を提案した。