僕らの背骨

「………。」
莉奈は本心では正樹と一緒に行くのは嫌だったが、一応誠二の"自害"の可能性を教えてくれた事から、さすがに拒絶は出来なかった。

正樹は莉奈の返答を待つ事なく部屋を先に出て行った。

莉奈は慌ててルームキーを掴むと、正樹に続いて部屋を出た。

すでにエレベーターの前に立っていた正樹は軽い苛立ちを見せながら上部の階数表示を眺めていた。

「…貧乏揺すり止めて。なんか目障り…。」
莉奈は正樹に以上に苛々しながらそう言った。

「………。」
正樹はため息をつきながら莉奈の指摘を受け入れ、仕方なしに姿勢を正した。

エレベーターのドアが開くと、二人は同時に入ろうとしてしまい、ふと肩をぶつけた。

「ちょっと!女の子からでしょ!」
莉奈は今にも殴り掛かりそうな剣幕で正樹に怒鳴った。

「分かったよ!一々怒鳴んなよ!」
正樹は一度身を引いて莉奈を先にエレベーターに乗せると、後に続いてエレベーターに乗り込んだ。

一階に着くまでの間、莉奈はあからさまに正樹と距離を置き、その"壁"を改めて提示していた。

エレベーターが一階に着くと正樹はしっかりと"開く"のボタンを押し、莉奈を先に行かせた。

「ちょっとタクシー拾っといて。」
莉奈は命令口調にもなりながら正樹を顎で促し、フロントにルームキーを預けに行った。

「………。」
正樹は止まないため息を周囲に撒き散らしながらエレベーターを降り、ホテルの出口に向かった。

莉奈はフロントにルームキーを預けると、ふと軽い目眩を感じた。

瞬時にその目眩が体全体に広がると、莉奈はゆっくりフロントの台に手をやり、体を支えた。

「…大丈夫ですか?」
ホテルの従業員がそんな莉奈の様子を見てそう聞いた。

「………。」
莉奈はすぐには返事が出来なかった。

次第に吐息が荒くなり、急激な吐き気が莉奈を襲った。

莉奈は深く息を吸い、震える手を台から離すと、目を閉じて自分の体調を確認した。

大丈夫…、大丈夫…。

こんなのたいしたことない…。

ただ、寝不足なだけ…。

「…すいません、…大丈夫です。」
莉奈はゆっくり目を開けると、苦笑いを見せながら従業員にそう言って、出口に向かった。

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