僕らの背骨
真理が親友にメールをしなかったのは、その親友が最近出来た彼氏に夢中で付き合いが悪くなり、日増しにメールの返信率が下がったからだった。
こんなにも重要な事柄を抱えているのに、いつもと同等に彼氏を優先されてメールを無視されたらきっと堪えられない…。
親友だと思えなくなってしまうのでは…、と真理は怖くなり、安全な"普通の友達"にメールをしたのだった。
電車に揺られながら真理は流れる景色を見ていた。
夕暮れから夜への景色は都会に立ち並ぶビルの隙間から見え、次第に強まる人工の光りが真理の胸を締め付けた。
元々都会育ちの真理だったが、その都会の光りを見る度に心を踊らせ、魅入っていた。
田舎には住みたくないな…。
そんな事を考えていると、電車は真理の目的の駅に着いた。
上り電車は時間帯的に空いていて、下りた瞬間もホームに人の壁は無く、真理は冷たい風にさらされた。
コート着てくれば良かった…。
季節的に昼間は不要なコートだが、この時期は気温差が激しく、夕方を過ぎれば必需品となる。
こんな中途半端な季節が大嫌いな真理だったが、不要な物をいちいち持ち歩くのはもっと嫌いだった。
それに先程の真理の精神状況を考えれば、外出時にコートを忘れるのも無理はない。
−いま駅ついた!"下"にいるね−
真理は駅から程近くの雑居ビルに入ると、そこは広いロビーのあるカラオケ店で、受付は寂れた造りで出来ていたが、ロビー中央に備え付けられたテーブルやソファはカラオケ店にしては立派な物だった。
この店が"4dax"と呼ばれる店であり、このロビーが先程のメールにあった"下"と呼ばれる場所である。
そのカラオケ店は大手チェーン店ではないだけに客足は悪く、ごく一部の学生や地元の若者が穴場として利用していた。
真理はロビーのソファに座ると、相変わらずの店の寂れっぷりに安心した。
一度このロビーで友達と話していると、真理は地元の大学生二人組にしつこく声を掛けられた事があった。
真理は年上が嫌いという訳ではなかったが、明らかに頭が悪そうで、正直に言ってブサイクなその二人組に興味を示せというのは、いくら経験の薄い女子中学生の真理でも、かなり難しい事だった。