僕らの背骨
「そうよ…、真理ちゃんは何も悪くない…。ごめんね、おばさんが変な事聞いちゃったから…。本当にごめんなさい…。」
紗耶の母も席を立って真理の肩に手を触れながら言った。
しかし真理は逃げるのが嫌だった。
紗耶の部屋へ逃げ込めば、取り敢えずこの場の混乱は収まる…。
それをこの二人が望んでいる事は真理にも分かっていた。
しかし、それでも真理がこうして座ったままこの場を離れようとしないのは、泣き出してしまった自分の甘えを、決してそのままにはしておきたくなかったのだ。
「…いただきます。」
真理は今だ溢れ出る涙を拭いながら、白身魚のソテーを口に入れた。
「…無理して食べなくて良いよ。」
紗耶は真理の肩に手を触れながら言った。
「無理なんかしてないよ…。普通に美味しいから。(笑)」
真理は涙の混じった塩気の強いソテーを笑顔で頬張りながら言った。
「………。」
紗耶の母は無言でその光景を眺めながら、気まずい顔でグラスのグレープジュースに口をつけていた。
結局真理は、そのフルコースを一人健気に笑顔を見せながら最後のデザートまで平らげ、紗耶の母にお礼を言った。
「…また食べたくなったらいつでも来てね。」
紗耶の母はせめてもの償いという意味も込めてそう言った。
「はい!ありがとうございます。私本当に来ます!!(笑)」
ここまできて真理が社交辞令で物を言う訳もなく、素直な気持ちでそう言った。
「じゃあ部屋行こっか?」
紗耶は席を立ちながら言った。
「うん。あっ、本当にごちそうさまでした。」
真理は紗耶に促されるまま席を立ち、最後にまた紗耶の母にお礼を言った。
「どういたしまして。紗耶、あんまり遅くまで起きてちゃ駄目よ。」
紗耶の母は思春期の娘には無駄な忠告をした。
「…はいはい。」
紗耶はドアの前に立ち、その無駄な忠告をやはり無駄だと判断しながら言った。
「真理ちゃんおやすみ。」
紗耶の母は言った。
「…おやすみなさい。」
真理はドアを出ながら紗耶の母に軽くお辞儀した。