僕らの背骨
{11月2日 PM 4:13}
シーツが足先に絡みつくと、莉奈は自分が裸足である事に気付いた。
体が重い…。
目を開けるのも煩わしい…。
莉奈はふと鼻で息を吸い込んだ。
変な臭い…。
家じゃない…。
ゆっくり体を動かすと、やたらと重いシーツが莉奈の動きを阻んでいた。
手足は汗でべたつき、顔に掛かる自分の髪も、汗で異臭を放っていた。
喉渇いた…。
すると、莉奈はふと目を開けた。
白い壁紙が視界の一面に広がり、ベッドや椅子、部屋の作りから判断して、間違いなくそこは病院の一室だった。
横目で気付いた点滴が、莉奈の左腕に管を繋いでいた。
「何これ…。」
莉奈はかすれた声で言った。
病気…?
莉奈の脳裏に重病の可能性が過ぎると、その瞬間…、莉奈のお腹が音を立てた。
「……(笑)。」
莉奈は自分で笑いながらシーツでお腹を押さえると、ゆっくり体を起こした。
軽く眠気の残る体の症状を自身で確かめるように考え込むと、莉奈は特別異変を感じず、安心した様子でまた体を寝かせた。
「……記憶ない…。」
莉奈は呟いた。
最後の記憶が何なのかさえ思い出せずにいると、莉奈は正樹の顔をイメージした。
あいつ…、
何かしてたら殺す…。
莉奈はどうして自分が病院にいるのかも理解出来ないまま、取り敢えず正樹に腹を立てた。
どこかで倒れたのかな…。
そんな無難な予想をしながら莉奈は頭を掻き、そのまま手を鼻の前に持ってくると、ふとその爪の匂いを嗅いだ。
「うわぁ…。」
莉奈は敢えて"汗臭い"という分かりきった報告は自身で避け、諦めた様子で事の次第を待った。
「看護婦さんとか来ないんかな…?あっ…、莉奈、保険証とか持ってきてない…。大変…、母ちゃんに来てもらわにゃいけん…。あぁ〜絶対怒られる…。」
莉奈は体をくねらせながらそんな現実に頭を悩ませていた。
「あっ、起きました?どう体調は?目眩とか吐き気はない?」
女性看護師が病室に入ってくると、優しい笑顔を見せながら莉奈にそう聞いた。
「はい…、大丈夫です…。」
莉奈は一応平静を装っていたが、頭の中では保険証やら母への連絡やらで困惑していた。