僕らの背骨

「軽い貧血と過労で倒れちゃったみたいだね…。取り敢えず今はゆっくり休んで。」
看護師は言った。

「過労…。ていうかあの…、入院しなくちゃ駄目ですか?」
莉奈は恐る恐る聞いた。

「うん、そうだね…、一応大事をとって二、三日は入院っていう形になっちゃうかな…。何か心配事?」
看護師はフレンドリーな口調で莉奈を安心させようと努めていた。

「あの…、莉奈、山口県に住んでるから…、保険証とか持ってなくて…。」
莉奈は病院を追い出される事も念頭に置いて言った。

「あっ、それは大丈夫。"田中さん"って言う人が治療費や入院費を払ってくれるらしいから安心して。そういえば"叔父"…って言ってたけど…。」
看護師は一応個人的な部分には軽はずみに介入しないよう漠然とそう聞いた。

「…叔父さん?えっ、叔父さんが今東京に来てるんですか?」
莉奈は誠二の叔父を頭に描きながら興奮気味に聞いた。

「うん…、さっきまでいたけど、今は"二人"の着替えを買いに行ったよ。」
看護師は特に意味を持たさずそれを莉奈に告知した。

「…"二人"?」
莉奈はそれが誰なのかを分かっていたが、他人からそれを言ってもらう事で核心が欲しかった。

「知り合い…、でしょ?…多分。…"吉岡誠二"君?」
看護師は少し躊躇いを見せながらその名前を言った。

「……生きてるんですか…?」
莉奈は潤んだ瞳で看護師を見詰め、かすれた声で聞いた。

「…うん、"事情"は敢えて聞かないけど…、友達ならこれから皆で支えてあげてね…。」
看護師は若者達の苦悩を理解しつつ、一定の距離は保ったままそんな助言をした。

「…じゃあ、特に命に別状とかはないんですよね?」
莉奈は看護師の説明のニュアンスから誠二の状態を推測してそう聞いた。

「腕と肋骨が折れてるから重傷には違いないけど、頭部は殆ど無傷だったから特に手術の必要もないと思うし…、多分必要なのは"精神面"での支えかな…。」
看護師は莉奈を諭すような口調でそう説明した。

「…会いたいんですけど。…ていうか誠二はどの部屋にいるんですか?」
莉奈は体を起こしながら言った。

「まだ駄目!とにかく今は二人とも休まないと…。」
看護師は莉奈の体を押さえ付けながら言った。

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