僕らの背骨

「それ本当ですか?莉奈に気を遣って言ってるだけじゃなくて?別に平気ですから本当の事教えて下さい…。」
莉奈はどうしても看護師の説明に納得がいかず、真顔で聞き直した。

「(笑)本当だってば!後で先生に聞いてごらん?誰もあなたの裸は見てないから安心して!」
看護師は子をあやす親のような笑顔で莉奈に説明した。

「………。」
莉奈はまだ納得が出来ない様子で無言のままそんな屈辱を忘れようとした。

幾分不調の度合いを理解してきた莉奈は、自身の体が今出来る許容範囲の動きだけで上手く歩を進めていて、エレベーターに乗る頃には看護師の支えを必要とせずに歩いていた。

「…何階ですか?」
莉奈は今後一人で誠二に会いに行く時の為にそれを確認した。

「三階。あなたの病室は二階ね。」
看護師は特に隠す事なく莉奈に教えた。

エレベーターが三階に着き、目の前のドアを開けると、不意に莉奈の心を動揺させた。

誠二に会える…。

莉奈の中でその喜びは確たる存在として感じていたが、心の奥深くにある"拒絶"という誠二からの意識示唆が今でも不安として残っていた。

もう終わったんでしょ…?

真理さんに全てを伝えて、
誠二は自由になれたんでしょ…?

莉奈は新たな誠二の誕生に期待していた。

どんな形での自害かは莉奈に知り得る事は出来なかったが、恐らく誠二は自殺を行動として起こし、…助かった。

正樹の言った通り、誠二が真理を擁護する余りあの"告白"をせずにいたとしても、行動がその終わりを告げたはずだ…。

全てが必然なら…、
自殺その物が結果的に誠二を救い、解放する…。

きっとこれが唯一の方法だったんだ…。

真理を傷付けず…、
誠二を救う…、

…ただ一つの行動。


「この部屋。まだ寝てるだろうから起こさないようにね?お姉さん仕事があるから戻るけど…、あなたも彼の顔見たらすぐ自分の病室に戻るんだよ?」
看護師はそう優しく言うと、莉奈の肩に軽く触れ、来た道を戻って行った。

「………。」
莉奈は病室の前で足を止め、ゆっくり深呼吸をした。

顔を見るだけ…。
今は何も言う必要はない…。


もし、拒絶されても…、

やっぱり…、
誰よりも誠二が好き…。

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