僕らの背骨
莉奈はゆっくり病室のドアを開けると、視線をベッドに向けた。
誠二は傷だらけの顔で静かに目を閉じ、僅かな寝息を漏らしながらその傷を癒していた。
「……誠二…。」
莉奈は点滴を片手で引きながらベッドに近付き、誠二の顔を覗き込んだ。
莉奈が生まれて初めて見る誠二の寝顔はどこか幼く、寂しそうにも見えた。
莉奈の知る美しい誠二の顔立ちはその傷によって多少の崩れを見せていたが、それがある意味では完璧過ぎる誠二の顔に親近感を持たせていた。
左の頬には大きい切り傷があるらしく、厚みのあるガーゼがあてられていて、細かな傷や痣は顔の全体にその跡を残していた。
莉奈と同じく点滴が繋がれた右腕は顔以上に傷があって、左腕は固いギブスに覆われていた。
想像以上に痛々しい誠二のその姿に莉奈は一瞬心を痛めたが、この掛け替えのない"命"が今もこうして息吹を絶やさず存在している事の方が、莉奈の胸を一杯にしていた。
莉奈はゆっくりベッド脇の椅子に座ると、愛おしいその求愛の対象に見とれた。
「…もう放さんけん。…莉奈は、二度と誠二を放さんけん…。…ずっと、…そばにおるよ。」
莉奈は誠二の左手の指先を軽く握ると、そんな"告白"をして自分の想いの強さを提示した。
するとその時、僅かに誠二の指先が動いた。
偶然である事は莉奈にも分かったが、莉奈は自身でこれを喜ばずにはいられなかった。
「誠二…、本当は全部聞こえてんじゃない?…今までずっと聞こえん振りして、莉奈の言った恥ずかしい事とか全部知ってて…、ひそかに笑ってた?…でもええよ、全部本心やもん…。莉奈は…、誠二が好きやけん…。」
莉奈は不意に誠二の指先を強く握った。
「…ん、……。」
誠二は痛みにうめき声をあげた。
「ごめん…。痛かった?…でも誠二は散々莉奈を傷付けたけん、そんくらい我慢出来るっちゃろ…。」
莉奈は少し笑みを見せながら誠二に本音を言った。
「…莉奈ちゃん?」
突然莉奈の背後から真理が話し掛けてきた。
「あっ…。」
莉奈は先程までの誠二への発言が聞かれてしまったのでは…、と赤面しながら軽く会釈した。
「…ごめんね、邪魔しちゃって。」
真理は莉奈の立場を尊重しながらそう言った。