僕らの背骨
「………。」
莉奈は無言で真理に意味ありげな視線を送った。
「…嘘でしょ?ないない!(笑)田辺なんて死んでも嫌だよ!」
真理は莉奈と同様、正樹を人間的にも男性としても魅力を感じず、今こうして自分への好意の存在を知っても正樹への嫌悪が失くなる事はなかった。
「…だろうね。莉奈もあんな奴のどこが良いのかさっぱり分かんない…。美紀さんってもしかしてB専?」
莉奈は好奇心で聞いた。
「さぁ…、でもブサイクの方が安心するんじゃない?知らないけど!(笑)」
真理は少し蟠りの取れた二人の会話に喜びながらそんな正樹を存分に卑下した。
二人の間に心地良い空気が流れると、一瞬目の前の誠二の存在を思い起こされ、二人は見合った。
「…ん?」
真理は莉奈の視線に何か意味があるのでは…、と感じ、素直に聞いた。
「別に…。」
莉奈は真理が誠二とどんな会話を交わしたのかを正直疑問に思っていたが、何より誠二の命が助かったという事を喜んでいたかった。
野暮ったく真理にそれを問い詰めてしまえば、やはり莉奈は自身で不安や嫉妬を持っていたのだと認めてしまう事になり、また収拾のつかない関係交差の再発にすら繋がり兼ねない…。
今ここに誠二がいる…。
莉奈はただそれだけを重要視しようと努めていた。
「…多分、"この人"は立ち直ると思う…。」
真理は独り言のように呟いた。
「えっ…?」
莉奈は真理に顔を向けた。
「彼がビルから落ちた時…、正直私は死んじゃったと思った…。今まで一人で背負っていた物を全部抱えたまま…、死んだと思った…。でも…、傷だらけの彼の手を握った時…、目が合ったの…。痛みに堪えて、必死に生きようとしてた…。だから、彼はあの時、ある意味では死んで、ある意味では"生まれた"んだと思う…。もう…、これからは何も背負わず…、大切な人と幸せな日々を送りたいと思ってると思う…。そうじゃなきゃ…、こんな可愛い寝顔にはならないでしょ?(笑)」
真理は誠二の顔を覗き込みながらそう言った。
「……大切な人と…。…ていうか真理さん…、誠二と手繋いだん…?」
莉奈は真理を睨み付けながら言った。
「…へっ?いやいや…、"兄妹"だしさ!それはセーフでしょ!?」
真理はあわてふためきながらフォローした。