僕らの背骨
「…何?」
真理は急にその返答に恐れを感じた。
知りたくもない真実が今この瞬間に目の前で露呈され、日々の平穏を揺るがすのでは…。
手紙はまさしく父からの物で、覆い隠されていた母の嘘を残酷にも暴いてしまうのでは…。
するとその時、
秋子は真理の手を軽く握った。
「…あなたのパパは、誰よりも優しい人だったから…、それがママには辛かったの…。」
秋子はそう言葉を濁した。
「…何それ、どういう意味?」
真理は率直に聞いた。
「ママはパパみたいに完璧じゃなかったから…、辛い時は辛いって言っちゃうし…、寂しい時は寂しいって言っちゃうの…。あの人がどんなに優しくしてくれても、ママの思い描く優しさじゃなきゃ嫌だった…。」
秋子はまるで少女のような顔付きで自身の心情を話していた。
「…ママ超わがままじゃん。…そんなんでよく捨てられなかったね?」
真理は半分冗談のつもりでそう言った。
「……そうね、…ママも同感。どうして…、私を捨てなかったのかしらね…。」
秋子はそう言うと、リビングを出て行った。
「………。」
無言でその母の背中を眺めていた真理は、今この瞬間に"何か"が壊れた気がした…。
母との信頼か…、
自分の平穏か…、
真理は困惑しながらもゆっくり立ち上がると、自分の部屋に戻った。
目の前に置かれたバッグには、まだあの手紙が入っている…。
しかし、今の真理にはまだそれを読む勇気がない…。
次第に強まる胸の動悸は真理の呼吸を荒げ、視線の定まらない瞳もその瞼を閉じる事でしか落ち着かせる方法がなかった。
ここにはいたくない…。
真理はバッグを掴むと乱雑に部屋を出て、階段を下りた。
玄関で一度リビングの方へ振り返ると、真理は母からの問い掛けを期待した…。
しかし、
そこに秋子の姿はなかった…。
真理は玄関から外へ出ると、
一心不乱に走り出した…。