僕らの背骨

「………。」
紗耶は真理に背を向けたまま黙っていた。

真理は悩んだ。

紗耶に気を遣うあまり傷心の親友を見捨て、特異なこの状況を継続させるべきか…。

もしくは、やはり親友を優先し、今までの平穏な日々にまた身を置くか…。

どちらにしろ、美紀が真理の親友である事は変わらない。

数年掛けて形成した美紀との信頼性は、こんな非日常的な短い一日だけで揺らぐ物ではない。

真理にとっては紗耶ではなく、美紀だけが"本当の友達"なのだ…。

「………行くの?」
そんな真理の顔を見て、紗耶はポツリと言った。

「………。」
真理は返答に困った。

既に"答え"は出ているのに、真理はどうしてもそれを声に出しては言えなかったのだ。

「……別に、良いよ…。アタシの事気にしないでも…。」
紗耶はプレーヤーのリモコンを持ち、まだ電源の入っていないテレビの画面を見つめながら、寂しそうに言った。

「………。」
真理はまだそれを口に出来ない。

美紀は"親友"だから…。

その言葉を言えば、真理の素直な気持ちは真っ直ぐに伝わる。

しかし同時に、
紗耶は別に親友じゃない…、という紗耶にとっては辛過ぎるその真実までも言ってしまう事になる…。

沈黙の時間が流れ、二人はお互い姿勢を変える事も出来ずに、ただその真理からの"通告"を待っていた。

すると、その重苦しい部屋でまた真理の携帯が鳴り響いた。

−これから会える…?
このメール見たら連絡して。−

痺れを切らした美紀が分かりきった懇願を今度はしっかりと文字にして送ってきた。

「…清水?」
紗耶は聞いた。

「…うん。」
真理は少し申し訳なさそうに答えた。

「…もう良いよ。…行きなよ。」
紗耶は真理に視線を合わそうとはせず、もうすでに諦めた様子でそう言った。

「………ごめん。」
真理はそんな紗耶からの優しさに甘えようと、携帯をしまいながら立ち上がった。

その時紗耶が真理に"何か"を期待していたのは、もちろん真理に痛い程伝わっていた。

しかし傷ついた美紀を擁護する為には、真理はその紗耶からの期待に気付かないフリをするしかない…。

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