僕らの背骨

カラオケ店のある雑居ビルが視界に入ると、真理はふと足を止めた。

そして真理はその視界に真横のコンビニを写すと、数時間前のあの男の様子を思い出した。

コンビニの入口の前でただ立ちすくみ、真っ直ぐ真理を見ていたその男には、どこか寂しさがあり、ほんの少し恐れがあるようにも見えた。

何故あの時、男は真理に話し掛けずにいたのか?

ただ人目を気にしてただけなのだろうか?

そんな事を考えていると、美紀が真理に話しかけた。

「何?コンビニでなんか買う?」
美紀は言った。

「…ううん、なんでもない…。」
真理はそう言って、その胸で騒ぐ疑問にまた蓋を閉じた。

カラオケ店に入ると、先程真理が座っていたソファにスーツ姿の中年が一人、そしてその部下のようにも見える20代後半の男性が向かい側のソファに座っていた。

真理にしたらこの店は穴場的な存在であっただけに、その二人組がこうして当然のように場所を陣取っている姿を見ると、何故だか真理は目障りというより"奇妙"な感じがした。

地元の若者のたまり場である事はこの二人組にも店の雰囲気で分かる筈なのに、その二人組は待ち合わせでもしているかのように、無言でそこに座っていた。

「…どうする?どっか別んとこ行く?」
美紀は小声で言った。

「うん…、ていうか部屋入ろうよ。今日はちゃんと美紀の話し聞きたいし…。」
真理はやはり、あの男と初めて"会話"をしたこの場所から離れたくはなかった。

「…私お金ないし、…近くの公園で良くない?」
美紀は恥じながらも真理には正直に本当の事を言った。

「私が出すから…、良いでしょ?今日は美紀辛い事あったんだからさ、変なプライド出さないで今日くらいは普通に払わせてよ…。」
美紀が施しを嫌がる事は真理は重々理解していた。

しかし今日のような特別な事由がある場合には美紀も折れるだろうという事も分かっていた。

「………。」
美紀は否定も肯定もせず無言で下を向いた。

「ねっ?外寒いしさ。」
真理はそう言って優しく美紀の肩に触れた。

真理からの施しを拒絶しなかった事自体が美紀が今日心底落ち込んでいる証拠だった。

真理はその美紀の様子を親友からの目線で確認すると、美紀の返事を待たずに受付に行った。

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