僕らの背骨

「いらっしゃいませ。お時間の方は?」
店員は言った。

「2時間で。あとフリードリンク。」
真理は言った。

「お二人様でよろしいですね?」
まだ入口付近にいた美紀を見ながら店員は言った。

「…あっ、はい。美紀何してんの?」
真理はまだ納得していない様子でもじもじ入口で立っていた美紀を、敢えて年下をあやすような態度で呼び寄せた。

「………。」
美紀は少しふて腐れながらも、ゆっくりと受付に近付いた。

「ていうか後でフリータイムに変更って出来ます?」
真理はまるで子供のようにスネている美紀を見て、この慰め会をたった2時間で済ますのは美紀に悪い気もして、店員に聞いた。

「あっ、出来ますよ。ただ2時間後に一度精算という形になりますけど…。」
店員は言った。

「…どうしようかな。」
真理はまだ少し気まずそうにしている美紀の横顔を見て、精算時にもまた美紀に気を遣わせるのも悪いと思った。

「3時間以上ご利用されるようでしたらフリータイムの方がお得ですね。」
店員はカウンターに置かれた料金表を見せながら言った。

「…じゃあフリータイムで。」
真理はその料金表をちらっと見はしたが、料金云々は真理の選択に何ら影響力はなく、ただ美紀への気遣いでそう決めた。

店員がそのお得な料金の提示をした事で、些か真理も美紀にそんな気遣いを悟られる事なくフリータイムに変更が出来た。

「お部屋は四階の3号室になります。」
店員は伝票やおしぼり等の入ったカゴを渡しながら言った。

真理はカゴを受け取り、美紀を連れてロビーの端にある狭いエレベーターに乗ると、ホッと一息した。

「そういえば今日、紗耶とここ来たんだよ。」
真理は敢えて隠さずに言った。

「…なんで?ていうか紗耶と別に仲良くないでしょ?」
美紀は言った。

「うん…、何となく。」
真理はふと"手紙"の存在を思い出した。

そもそもの元凶であるその手紙について、美紀に話すべきか?

しかし、今日は美紀の話しを聞くべき立場であり、それを蔑ろにするのはあまりに親友として冷た過ぎる…。

だが、手紙の説明を無くして紗耶との接近を説明する事は難しい…。

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