僕らの背骨
真理はそう混乱しながらも、早く部屋に入り話題を切り替えようと算段していた。
エレベーターが四階に着くと、真理は急にトイレへ行きたくなった。
「先行ってて。」
真理はカゴを美紀に渡し、トイレに向かった。
これは決して紗耶についての言及を避ける為に起こした行動ではないが、真理は偶然にもその"タイミング"に救われた。
真理はトイレで用を済ませ手を洗っていると、ふと目の前に写し出された自身の顔を見た…。
計算高くて、独りよがり…。
いつも自分の事ばかりで、平気な顔をして嘘をつく…。
それが自分…。
親友を大事にするのは、
自分が一人ぼっちになりたくないから…。
美紀の為じゃない…。
今もこうして、私は自分の事ばかりを考えてる…。
真理は下を向き、開けっ放しになっていた蛇口を締めた。
しばらくして顔を上げると、鏡には自分とその後ろに立つ一人の少女が写っていた…。
物音一つ立てずに姿を現したその少女は、一見すると真理と同じか少し下くらいの年頃で、ブレザータイプのここらでは見慣れぬ制服を着ていた。
その少女は無言でそこに立ち、ただじっと鏡越しに真理を見ていた。
「…あっ、ごめんなさい。」
驚いた真理はその少女が水道を使うのだと思い、すぐに場所を譲った。
「……、秋子さんは元気?」
少女は言った。
「…はっ?」
真理は困惑しながら聞き返した。
「…田中秋子さん、あなたの母親でしょ?」
少女はあどけない表情で少し首を傾げながら言った。
「あっ、秋子…、はい…。そうだけど…、えっ?…誰?」
真理は困惑した様子のまま聞いた。
「名前は"莉奈"。でもそんな事はどうでも良いの…。それより、…あなたのお母さんって……。」
莉奈は途中で話すのを止めた。
「…な、何?」
真理は不審極まりないその少女を怪訝な顔付きで眺めた。
「何かな…。莉奈にもよく分からない…。"誠二"には会った?」
莉奈はあどけない表情を変え、下を向きながらその悲しそうな様子を真理に見せた。