僕らの背骨

その場は店員の注意で面倒な事にはならなかったが、今でも真理にとっては嫌な思い出だった。

いつしか店の至る所に"ナンパ厳禁"と書かれた紙が貼られるようになり、店側の治安は良くなったようだ。

そんな事を考えていると、友達が後ろから真理に声を掛けてきた。

「あれっ、一人?」
紗耶は少し困惑した表情で真理に聞いた。

「うん、なんで?」
紗耶が困惑するのも無理はない。学校で話す事はあっても、二人きりで遊ぶのは初めなのである。

もちろん紗耶の困惑は真理にも予想出来たが、誘った当人が相手の困惑を予想通りだなどとは表情に出せない。

飽くまでこの二人だけのカラオケが自然な事なんだと主張する意味で、真理は"なんで?"ととぼけたのである。

「…清水もいんのかなって。」
紗耶は困惑したままである。

「美紀は忙しいんだって。」
予想以上の紗耶の困惑顔に焦った真理だったが、勢いにまかせて仲良くなろうと決めた。

「清水ってまだ吉川先輩と付き合ってんの?」
紗耶はソファに座りながら聞いた。

「違うよ、それはとっくに別れた。ちょっと前から田辺と付き合ってて今超ラブラブ…。」
真理は悔しそうに言った。

「はぁ!!田辺!?どこが良いのあんなの?」
紗耶は笑いながら他人の彼氏をけなした。

「私も全然意味分かんない!
美紀超モテんのになんで田辺!?」
真理は紗耶の意見に乗っかり、親交を深めるきっかけを見極めた。

しばらく田辺の悪口で場は盛り上がったが、30分もするとネタは尽き、困った真理は部屋に入ろうと提案した。

「ていうか別にここでよくない?タダだし。」
紗耶はあっさり真理の提案を拒絶した。

「…だね、タダだし!じゃあ何か飲み物買ってこよっか?」
まさかの拒絶に動揺しつつも真理は平静を保ちながらソファから腰を上げた。

「あっ、私あるからいいや。」
紗耶はバッグからペットボトルを取り出しながら言った。

「…じゃあ自分の買ってくるね。」
真理は店にある自販機ではなく、わざわざ外のコンビニまで買いに行った。

その理由は言うまでもない…。

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